商都・福岡には名建築が少ない?「かっこいいビル」を考察(前)
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市内のベンチマーク
そんななかでも、やはり異彩を放っているモノはどこにでもあるわけで、福岡市内のベンチマークを探ってみたいと思う。九州建築といえば、磯崎新、黒川紀章、アルド・ロッシという辺りが団塊ジュニア世代の心をくすぐるところだが、やっぱりこれは外せないだろう。
1975年竣工の「福岡銀行本店」(設計:黒川紀章建築都市設計事務所)。外観は静寂。敷地の3分の1を占めるヴォイドの中庭に対して、すべての採光面を開放している代わりに、最外周は硬く閉ざされている。ヴォイドの天井面をより高く、より手の届かないほどの距離に持ち上げる思想が、銀行特有の権威の象徴ともとれる要塞感を感じさせる。外部からはまったくその存在に気づかないが、音響の良さに定評のある地下ホールでは、日夜音楽会が開かれている。内部と外部の潔い断絶が、この建築の力点だ。
個人的には建物正面、左側上層部にある、縦に細長いスリット窓が好きだ。幅50cm×高さ3m程度だろうか。遠くからこの陰影を観ると、一冊だけ差し込める本棚のように見える。ほとんどの外装を黒い花崗岩で覆われている外皮は、建物というよりは造形物という塊。そこだけが線状に切り込まれていて、何か大切な著書を1冊だけスッと仕舞っておく書棚のようだ。重厚な銀行という所在ゆえに、“上品な守りの金庫”といった高尚な演出を感じさせる。
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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