2024年04月25日( 木 )

「誰もが扱える」がキーワード AIで建設業の人材不足を解消(前)

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オングリットホールディングス(株)
代表取締役社長 森川 春菜 氏

 人口減少にともなう技術者不足が深刻な問題に浮上している建設業界。その一方で、就職弱者と呼ばれるシングルマザーや精神・身体障がい者、日本で就職を希望する留学生は数多く存在する。正反対の課題をもつ両者を結びつけるため、AI技術の開発と「誰もが働ける社会」の構築を目指すオングリットホールディングス(株)の代表取締役社長・森川春菜氏に話を聞いた。

点検業にロボット導入のメリット

オングリットホールディングス(株) 代表取締役社長 森川 春菜 氏
オングリットホールディングス(株)
代表取締役社長 森川 春菜 氏

    ──貴社はどのような事業を行っているのですか。

 森川春菜氏(以下、森川) 当社では「構造物点検事業」「AI/ロボット事業」「アウトソーシング事業」という3つの事業を行っています。メインは「構造物点検事業」で、橋・トンネル・コンクリート構造物、街灯や標識などの道路附属物といった土木関係の構造物が点検対象です。これらの点検業務を実際に下請の点検業者として行っていますが、他社と異なるのは点検作業を効率化・省力化するためのロボットを開発していることです。

 道路照明の点検を例に挙げると、これまで1日8時間稼働して8本しか点検できませんでしたが、ロボットに置き換えると1日32本の点検を完了させることができます。これは高所作業車を使う必要がなくなることが大きな理由となっています。高所作業車を設置して点検するには交通規制を行う必要があり、さらに対象の道路照明から200m前後に看板を設置しなければなりません。そこから点検作業を行い、規制解除するまでに時間がかなりかかってしまいます。

 当社の道路照明の点検に特化したロボットを活用して点検作業を行った場合、最大で従来の4倍のスピードで作業を行えるため、「時間のコストカット」ができます。それ以外にも、高所作業車が使う多大な量のガソリンの消費やCO₂の排出を抑えることができるため、金銭的・環境的コストも削減できます。今後も点検作業におけるロボットへの転換は全国的に需要が増加していくとみています。

 ──ほかにどのようなモノを開発していますか。

 森川 当社で開発したのが「接着型ドローン」です。外から見える部分だけを撮影するドローンなら他社製品でもありますが、「直接叩いて中の異常を振動で感知できる」というモノはあまりありません。そもそも飛行型ドローンは操作が大変難しく、対象に対して一定の距離を保つどころか、ドローンを飛ばすことすら簡単にはいきません。そのため、当社では飛ばさないドローン、つまり「接着型ドローン」を開発しています。この場合、自由飛行のかたちをとらないために飛行許可の必要もなく、簡単に一定距離を保ち続けることができるため、誰でも操縦できます。

 この「接着型ドローン」が撮影した画像を基にAIが損傷を解析します。点検対象物を直接叩き、跳ね返ってきた周波数をAIが感知します。これは従来行ってきた打音検査に取って代わることができます。通常は点検士が直接耳で聞きながら行う業務ですが、ドローンの場合はモーターに跳ね返ってきた振動・周波数を感知して判断します。そのため、ドローン自体の駆動音や周囲の雑音などに左右されることなく検査することができ、対象物そのものの位置や気象条件、周囲の環境にも左右されません。いわば「骨伝導」のようなかたちです。

同社社員と最初に開発した高所用点検ロボット
同社社員と最初に開発した高所用点検ロボット

 ──「誰もが扱える」がキーワードのようですね。

 森川 ソフト面でも開発を行っていますが、当社で開発した「マルッと図面化」はまさしくその通りではないでしょうか。建設業界で年々深刻になっている人材不足は技術者の減少に起因していると思います。当たり前ですが、技術や専門知識をもった人でなければ現場で働くことができません。若年入職者が少なくなっていくなか、人材不足の状況は悪化していく一方です。

 この「マルッと図面化」は「建設・土木に関する知識のない人でも図面を作成できる」という点が大きな特長です。これまでの点検作業は、現地で点検士が点検対象となる構造物を見ながら損傷部分にチョークをつけ、その跡を見ながらその場で野帳という図面に書き起こしていくというものでした。現場で野帳を記載し、事務所に戻り、描いた本人がCAD(コンピューター支援設計)図面の作成をする。描いた本人にしか現場のことはわからないですし、何より野帳を描くこと自体に専門知識が必要になるため、分業できないと考えられてきました。しかし、「CAD図面を描く」という作業だけであれば専用のテクノロジーを用いることで、素人でもCAD図面を作成できるのではないかという点から生まれたのが「マルッと図面化」です。

 チョーキング(点検対象の構造物の損傷部分につけたチョークの跡)がわかる写真を撮影して連結させ、構造物1棟分を1枚の写真とします。それをAIに読み込み、画像認識させます。現時点では、費用対効果を考え、すべての損傷をAIに認識させていないため、判断しきれなかった損傷については、人力でタッチペンで写真の上からなぞってもらって、CAD図面にそのまま変換するソフトを活用することですべての損傷に対応できるようにしています。さらに、国交省の点検要領をデータベース化して管理しているので、土木知識がない未経験者の方でも作成が可能です。このようなツールを使うことによって、点検の質は落とさずに、分業ができるようになりました。これまで技術者に仕事が集中していた一方で、仕事がしたくてもできなかった人が多くいました。このソフトは技術者の負担軽減や現場の人材不足の解消だけでなく、幅広い人々の労働機会の創出にもつなげることができます。

(つづく)

【杉町 彩紗】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:森川 春菜
所在地:福岡市博多区対馬小路10-22
設 立:2018年3月
資本金:1,100万円(資本準備金を含む)


<プロフィール>
森川 春菜
(もりかわ はるな)
1986年生まれ、大阪府出身。専業主婦時代にシングルマザーの友人から子育てしながら仕事のできる環境が少ないという相談を受けていたことから、建設業界の人材不足とのマッチングを目的に2018年にオングリット(株)を創業。さまざまなビジネスコンテストで受賞経験をもち、21年10月に「第20回女性起業家大賞」奨励賞を受賞。

(後)

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