2024年03月29日( 金 )

音のデルタ地帯 「俺の」吉塚(後)

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もったいない場所

吉塚の用途地域
吉塚の用途地域

 さて、ここまで吉塚が交通の要所であることがわかってきた。北東~南西に鉄道が走り(①)、東西に国道と高速道路(②)、さらには北西から南東に向けて飛行機が下りてくる(③)。これらの①~③の移動軌道を線でつないでみると、おおよそ三角形のエリアが浮き上がってくる。そしてその線上に囲われた内部に、すっぽりと吉塚街区が嵌っているのだ。街のなかを歩いていても場所柄、大型ダンプや運送トラック、機械車両などの走行音もすぐ手が届く所で聞こえてくる。とにかく内外で音が纏わりついてくるエリアといえる。

 知人から聞いていたこの街のはっきり言い表せない印象は、この音が纏わりついてくる居住体験にあるのかもしれない。吉塚は地政学上の鉄道の要所であり、飛行機の軌道上にあり、また自動車輸送経由の歴史が重なり醸成されてきた。

 しかし、それゆえに音に翻弄される生活を余儀なくされ、生活から遠い用途とされる工業地域をあてがってうまく稼働させてきた。工業の視点からすれば、都心に近い場所で仕事ができる利点があるが、それはそれで「もったいない」とも感じさせる。

 生活視点からすれば子育てには防音の観点が必須になり、そのような補助や対策が望まれるだろうし、ファミリーの生活背景を感じ取りにくい場所といえる。少なくともそのなかには小中学校があり、商店や飲食店、子どもの習いごとのスイミングスクールなどもあり、人々が生活する家屋やマンションがある。「住めば都」とはいえ、音の弊害は乗り越えられているのだろうか。
 冒頭申し上げた「y_お静かに」と変換した言葉遊びも、偶然とはいえここまでくると、名前のなかに願いが込められているのでは…と勘違いしても不思議はないほどだ。

立ち位置は「俺の吉塚」

街中にベンチが多くある
街中にベンチが多くある

    もう1つ感じたことに、歩きタバコをする老年男性が多いことがある。そして同時に、店頭やエントランスに灰皿とベンチを置いてある店やビルが多いということ。現代の法規制に抗って歩きタバコをするという行為は、ある意味で意志が強く、一本筋が通っているともいえる。その行為を街が許し、店先でそれを回収するという独自のルールが街のなかに根付いているのかもしれない。古き良き世代を大事にし、尊重し、また抱擁する懐の深い、人情が残るおもてなしの街―それゆえにこう思った。「職人気質の男臭いまち」だと。

 汗臭い工場の男たちなのか、定食屋の店主の立ち居振る舞いからなのか、もしくは接した人たちの心意気なのか。それぞれに背負っている「俺の吉塚」といった姿勢が感じられる。「俺の…」とは迎合しないという意思。他は関係ない。我が道を行くが好きなやつは付いてこい、的な。そしてこの街の硬派な佇まい。アート的な志向にさえ汲み取れた。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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