2024年03月29日( 金 )

“アート思考” でとらえ直す都市の作法(4)

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未来へ“提案の種”【設計編】

5階建ての世間

5階建ての世間
5階建ての世間

    たとえばこんな複合職住ビルの提案を紹介してみたい。私が尊敬する建築家が30年以上前に考察し、残念ながら実現されなかったアイデアだ。

 これまで2階建てだった家を、(自治体が十分な支援をして)周辺すべてそろえて5階建ての建物に建て替える。そして、これまで老人がやっていた商売を、息子に引き継いで新たな建物の1階でしてもらう。もちろん賃貸空間にすればテナント誘致として、ギャラリーやサロン、カフェなどの店舗や、シェアオフィスなどで収益性を高めることもあるだろう。商売での利益が薄い場合を想定して、2階、3階の住居を人に貸す。そして4階を子どもたち家族、5階を老人夫婦というように、4~5階を2世帯住宅にする。屋上の高さをそろえておけば、隣の建物の5階にも昔からなじみの老人が住んでいるのだから、屋上レベルで横の老人同士のコミュニティができるではないかという提案だ。さらに一歩進めて、隣の屋上との間に橋をかければ、屋上から隣に移動することもできる。そうすれば中空に第2のグランドレベルが生まれ、下町のような濃密な付き合いを続けることができる。

オフィスには「セレンディピティ」

昭和時代の働く姿
昭和時代の働く姿

 業界にもよるが、テクノロジー企業に勤めるような若い世代は、「オフィスにはもう戻りたくない」と考えている節がある。主従関係にある両者が願うことは、「オフィスに戻って来ることが楽しいことであってほしい」といったところだろうか。今後、オフィスの在り方は企業にとって、その会社の体質を表すアイデンティティとなっていくかもしれない。「しばらく会っていない人とばったり会うような場所」「コーヒーショップやレストランのようなソーシャルな形態」「ほかのグループの仕事が目に入るような適度な緊張状態を育む空間」など、そこに行くことでしか得られない偶発性、突発的なシナジーが発揮されるようなセレンディピティの設計が重要になってきている。

 実際にはバランスも大事で、8時間もコラボレーションをしているわけにいかないので、1人で集中できる執務室も必要だが、オフィスは作業や用件を済ませるためだけの“井戸的”なものから、信頼関係の構築やチームワーク向上を行う“焚き火”的なものへと存在理由が変わっていくのは間違いないだろう。

1階に社員食堂

1階の給湯室
1階の給湯室

 オフィスの1階に社員食堂はどうだろう。グランドレベルに、誰でも利用できるカフェやレストランを運営する。社員でも市民でも観光客でも誰でも使える。そこで活発な交流と、幸福な時間を送れる空間を。堅苦しい会社のエントランスの使われない受付があるくらいなら、気軽に入りやすくなる会社の給湯室を1階にもってくるのもいい。現時点でテクノロジー的に再現するのが難しいのは、「味覚と嗅覚」だといえる。視覚と聴覚は再現できつつある。だからこそ、オフィスに集まるためのトリガーとして、人を自然に引き寄せる“食の力”は有効だろう。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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