2024年04月20日( 土 )

バイデンの新たな対アジア戦略 振り回される岸田政権(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

抜け目のないバイデン大統領

 アメリカのバイデン大統領は巷間、認知症が懸念されていますが、なかなか強かな外交巧者であることは侮れません。先の来日時の記者会見では「台湾有事に際し、アメリカは軍事介入する」と自信たっぷりの発言をしました。これは従来の「あいまい戦略」を「明確戦略」に転換するものだと、日本でも保守層を中心に拍手喝采を浴びたものです。

 岸田総理も「今日のウクライナは明日の東アジアだ」と歩調を合わせ、日米同盟がアジアや世界の安定に不可欠との認識を強調しました。その流れを受け、日本は台湾に現役の自衛官を派遣する方向を打ち出し、すでに陸海空海兵隊4軍の駐在武官を派遣しているアメリカとの情報交換を強化することを明らかにしています。

 しかし、アメリカの国防総省とランド研究所がまとめた「台湾有事シミュレーション」の内容が公表されると、バイデン大統領の発言は再び「あいまい戦略」に逆戻りしてしまいました。というのは、いくら米軍が介入しても「台湾は1週間から2週間で中国に席巻される」ことが明らかになったからです。

   ウクライナと同様、台湾にもアメリカ製の武器や弾薬の輸出額を増やせれば軍需産業にとっては御の字ですが、実際に米中の軍事対決となれば、アメリカに勝ち目はないというわけで、アメリカ軍を戦争地域に投入することは極力回避したいという身勝手な論理に他なりません。その点では、バイデン大統領は抜け目ない対応ぶりを見せています。

 要は、バイデン大統領は岸田総理をおだて、長期化するウクライナ戦争や台湾有事の可能性を持ち出しては、日本からの支援や軍事的関与を引き出すことに成功しているのです。実は、史上最悪の財政危機に陥っているアメリカには輪転機でドル紙幣を増刷することはできても、現実的な経済金融政策は期待できません。

 そのためインフレが急拡大するアメリカでは、貧富の格差が悪化するばかりでなく、銃による乱射事件も増加する一方です。バイデン大統領は「銃規制」を声高に主張していますが、息子のハンター・バイデン氏によると、「父親は自宅に銃を5丁は備えている」とのこと。ここでも言行不一致は否めません。

「使い勝手の良い同盟国」日本

 内外ともにアメリカの先行きには厳しい見方が増えています。そのため、アメリカの赤字国債は買い手がつかず、中国も手放し始めており、けなげに買い支えているのは日本だけという状況です。トランプ大統領の時もそうでしたが、バイデン大統領も日本への入国も出国も米軍横田基地を使っています。日本からは大量の物資をノーチェックで持ち出しているのです。アメリカにとって、これほど使い勝手の良い同盟国はないでしょう。

 また、バイデン大統領は「国内経済の問題の原因はロシアにある」と断言し、ウクライナ戦争を「もっけの幸い」とばかり、「対ロ経済制裁」の大義名分としています。ヨーロッパ諸国をはじめ、日本もそれに同調してきました。ところが、ウクライナ戦争が長期化するに従って、アメリカ国内の農業生産や海運業に陰りが出始めるや、たちまち前言を翻し、ブルームバーグが伝えるように、バイデン大統領は「アメリカの農家や運送会社はロシア産の肥料の輸入を増やすべきだ」と言い始めています。要は、ロシアに対する経済制裁がアメリカの自国産業、とりわけ農業に深刻な影響がおよぶことに気が付かなかったわけです。

 この一例からもうかがえることは、アメリカやヨーロッパ諸国が「ロシアは食料を武器にしている」と非難してきたものの、こうした戦略を長年にわたり最も熱心に実行してきたのは実はアメリカだったという歴史的事実です。キッシンジャー元国務長官などは「敵国を潰すにはエネルギーを武器にすべきだが、敵国の国民を潰すには食料を武器にするのがベストだ」と主張してきました。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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