2024年04月16日( 火 )

ローカル線の存廃に関する協議会(1)

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運輸評論家 堀内 重人

輸送密度1,000人未満の路線の存廃に関する協議会

 1kmあたりの1日平均輸送密度が、1,000人を下回るローカル線の在り方について、国土交通省の有識者検討会が7月25日に、提言をまとめた。これらの路線や区間については、国が協議会を設置し、沿線自治体と鉄道事業者が存廃を含めて議論を進めるよう求めている。近く国土交通省に提言し、今後の政策へ反映させるよう求めるとしている。

 従来のローカル線の存廃に関する協議では、廃線を警戒する自治体が積極的に応じないケースが多かったことから、検討会は新たな制度を検討するとしている。提言には、国が中心となって、自治体と鉄道事業者が話し合う「特定線区再構築協議会(仮称)」の設置が、盛り込まれた。この協議会は、鉄道事業者か自治体からの要請を受けて国が設置する。そして協議会を設置する目安として、以下のような基準が設けられた。

(1)平時の輸送密度が1,000人を切る
(2)ラッシュ時などの1時間あたりの片方向の最大乗客数が500人未満
(3)都道府県や経済圏、生活圏をまたがる

 ただし、県庁所在地などの拠点都市を結ぶ特急列車が通ったり、全国の鉄道貨物輸送の一翼を担ったりして、鉄道ネットワークを形成する区間や、代替輸送道路がない区間は、協議会の対象から除外するとしている。

 協議会設置後は、「鉄道の廃線を前提とせず、存続の可能性も含めて議論する」としており、3年以内に存廃の結論を出すとしている。

 存廃の基準として、「営業係数」を基準としなかった点が、筆者は評価できると考える。「営業係数」は、100円の収入を得るのに要する経費であるが、車両の動力費・修繕費や乗務員の人件費、分岐点の駅の維持費などを、どの線区で落とすかにより、大きく変化する。

 鉄道事業者が、不採算路線を廃止したいため、複数の線区で運行される車両や乗務員の経費を、廃止したい線区や区間で落とすようにすれば、極端に悪い数字となってしまう。

 芸備線の備後落合~東城間の営業係数が、「20,000」となったりするが、車両や乗務員は木次線や芸備線の三次~備後落合間でも使用されるため、それらの経費を備後落合~東城間で落としている可能性が高いと見る必要性があるといえる。

国鉄再建法との違い

 1980年に成立した国鉄再建法と比較してみる。国鉄再建法では、鉄道で存続させるか否かの1日1kmあたりの輸送密度が4,000人で未満あり、かつラッシュ時などの1時間あたりの片方向の最大乗客数が1,000人以下、平均乗車km数が30km以下など、今回設置が検討されている「特定線区再構築協議会」よりも、鉄道の輸送密度などが高く、条件が厳しかったといえる。

 その反面、今回の「特定線区再構築協議会」では、県庁所在地などの拠点都市を結ぶ特急列車が走行する場合や、貨物輸送の一翼を担っている線区は、除外されることになった。

だが平均乗車kmという項目が盛り込まれず、乗車距離が長くなれば、バスではトイレがない上、乗り心地も悪くなるなど、サービス面で問題が生じる。国鉄再建法と比較して、後退してしまったといえる部分である。

 特急列車が運行されている場合が除外された理由として、国鉄再建法では名古屋~新宮・紀伊勝浦間を結ぶ特急「南紀」が、当時の国鉄伊勢線を通っていたにも関わらず、輸送密度だけで、第二次特定地方交通線に選ばれ、世間を驚かせた。伊勢線は、名古屋~南紀方面へ向かう特急列車の速達化を目的に建設され、開業から10年も経過していないにも関わらず、第二次特定地方交通線に選ばれた。

 伊勢線を廃止すれば、特急「南紀」は亀山経由になることから、距離的に遠回りになるだけでなく、亀山で進行方向を変えなければならず、「なぜ、伊勢線を建設したのか」が、問われることになる。幸いなことに、伊勢線は第三セクター鉄道の伊勢鉄道へ経営移管され、現在は特急「南紀」だけでなく、快速「みえ」も運行されており、国鉄時代よりも活性化している。「特定線区再構築協議会(仮称)」で、「県庁所在地などを結ぶ特急列車が通る」という除外項目が設けられたのは、かつての伊勢線の事例があるからだ。

(つづく)

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