2024年04月20日( 土 )

AIが普及しても、人による情報収集はなくならない(前)

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日本ビジネスインテリジェンス協会
理事長 中川 十郎 氏

 商社マンとして20年以上、8カ国に海外駐在し、60カ国以上で海外事業や海外ビジネス開拓に携わった経験から、新ビジネスの開拓では情報を収集して活用することが欠かせないと語る日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS)理事長・中川十郎氏に、BIS活動を通じて今見えていることを聞いた。

情報を見抜く力をつける

日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏
日本ビジネスインテリジェンス協会理事長
中川 十郎 氏

    「商社マンとして海外で新しいビジネスを開拓するにあたって、人の3倍もの情報を集めてきました。メーカーは原料からモノをつくりますが、商社は集めた情報を組み立ててビジネスをつくります。まるで『情報商社』といえるほど、どこよりも情報を活用してきた業種ではないでしょうか」と中川氏は語る。

 本人が直接見たり聞いたりして得た情報を「1次情報」、人から聞いたり、新聞、テレビ、ラジオから得られる情報を「2次情報」という。中川氏は新しいビジネスを開拓するうえで、とくに政府や産業界など政財界の関係者から収集した1次情報を役立ててきた。信頼できる人脈を構築して、「ヒューマンインテリジェンス(人的情報)」を活用することが最も大切だという。

 「情報洪水ともいわれる今の時代は、情報の価値を見極めることが欠かせません。『グローバル企業の情報組織戦略』(中川氏ほか共訳、エルコ社刊)の著者であるベンジャミン・ギラード博士は、本当に役立つ情報は砂浜のなかのたった1粒ほどしかなく、その情報を見抜く力が必要だと言っています」(中川氏)。

 中川氏は、役立つ情報を見極めることが大切だと語る。BIS顧問であった故・小野田寛郎元陸軍少尉からは、「入手した情報は正しいかどうかを必ず確認して、納得できる情報だけを活用し、少しでも怪しいと感じたら活用してはいけない」と常日頃アドバイスされていたという。「その情報が正しいか否かは、情報源となる人が信用できるかどうかにかかっています」(中川氏)。

 中川氏が海外駐在していたときは、現地の生の情報を集める努力をしていたという。日本語だけで生の現地情報を集めるのには限度があり、現地の言葉で探すと深い情報が入手できるためだ。

情報に対する感度を高める

 「欧米やイスラエルでは情報に対して、日本より熱心に研究がなされています。日本でも、情報の価値を改めて認識し、情報に対する感度を高めることが必要です。雑多な情報から役立つ情報を見抜いて、政治や経済に活用することが大切だと考えて1992年にBISを設立しました」(中川氏)。

 BISでは、30年間で講師約550名による合計175回の情報研究会を開催し、これまで約1万6,000人が参加した。最初の15年は、米国競争情報専門家協会(SCIP)を参考にして、組織の競争力を高める「競争情報(コンペディティブインテリジェンス)」を中心に研究を行い、米国で発刊された競争情報を扱った書籍を翻訳し、日本に紹介した。しかし、日本ではそれらの情報に関してそれほど関心が高くなかったという。

 その後、研究の対象を「競争情報」から、データを分析して経営判断に役立てる「ビジネスインテリジェンス(高度経済・経営情報)」に移した。15年ほど前からは、実践的な情報収集や分析に注力している。中川氏は「まさに継続は力なりと感じています。情報や人脈を集積することで、さまざまな専門家が講師として参加しています。重要な情報は慎重に扱うべきですが、モノとは異なり、情報は与えてもなくなりません。情報を渡すと相手からもフィードバックがあり、情報を循環させることでさらに多くの情報が入ってきます」と語る。

 BISは中国でも1994年に設立されており、設立にあたり中川氏は「中国競争情報協会」(現・中国科学技術競争情報学会競争情報分会)国際顧問として協力した。中国では、競合他社の情報をいかに入手するかという取り組みが日本よりも進んでいる。世界情勢が揺れ動くなか、情報を収集して分析し、未来を予想することが強く求められている。

全体を見なければ病気は治らない

 中川氏が経済情報とともに注目してきたのが、健康・医療情報だ。生活や仕事をするうえで、健康を保つことが大切であるからだ。かつてBIS顧問であり、心臓医学研究において世界的に活躍されたニューヨーク医科大学臨床外科教授の故・広瀬輝夫医学博士は、2017年に漢方医学やインドのアーユルヴェーダなどの伝統医療を研究する国際伝統・新興医療融合協会を創設した。中川氏は広瀬氏の指示で同協会の理事長に就任、過去4回の国際大会を開催した。今年も10月に衆議院議員会館会議室を会場に、第5回国際大会をリアルとZoomのハイブリッド形式で開催する方向で準備中だ。

 「広瀬博士は西洋医学に限界があることを見抜いていました。西洋医学は、肉体と精神を分けて考えるため、胃や腸の手術のように肉体の一部を治療します。しかし、人は肉体と精神が1つのものであり、精神的なことも含めて全体を治療しなければ病気は良くならないため、東洋医学や伝統医療を現代医療に取り入れるべきだと唱えていました」(中川氏)。

▼おすすめ記事
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 精神の調子が良くなると、体の病気も治りやすい。医食同源といわれるように、オーガニック食品(有機食品)など体に良い食事を取り、飲料水や部屋の空気に気を配り、呼吸法を取り入れて体調を整えることが健康の秘訣だという。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
中川 十郎
(なかがわ・じゅうろう)
 鹿児島ラサール高等学校卒、東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会学術顧問、国際伝統・新興医療融合協会理事長、中国科学技術競争情報学会競争情報分会国際顧問などを務める。
 共著に『見えない価値を生む知識情報戦略』(税務経理協会)など、共訳書にウィリアム・ラップ『成功企業のIT戦略』(日経BP)など、英文共著に“The Intelligent Corporation” Taylor Graham.など多数。

(後)

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