2024年03月29日( 金 )

鹿島と久留米市の体質を問う!技術意見書は何を示したか(後)

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鹿島欠陥マンション裁判

 鹿島建設(株)が元請として福岡県久留米市で施工した「新生マンション花畑西」の欠陥をめぐる裁判で、原告住民らの依頼を受けた1級建築士が公表した技術意見書は、これまでに指摘されていた欠陥以外の新たな欠陥を示すものだった。技術意見書は何を示したか--。

構造耐力を17%危険側に設計

 構造設計で、必要保有水平耐力(地震などの水平方向の力に対し、建物などが耐えることができる力)を計算するときの係数(Ds)が、柱脚の「非埋め込み形」と「埋め込み形」では大きく異なっており、同マンションのようにSRC造の場合でも、「非埋め込み形」ならばRC造とみなさなければいけない(2007年版「建築物の構造関係技術基準解説書」)。具体的には、東京都建築構造設計指針では、SRC造のDsは「0.3」だが、RC造の場合は「0.35」と定められている。

 技術意見書は、Dsが大きいほど、建物に要求される構造耐力が大きくなるので、「非埋め込み形」なのに「埋め込み形」だとして構造計算された結果、本来必要な構造耐力よりも少なく設計され17%危険側の設計になっていると指摘する。

建築確認で見抜けないはずがない

 技術意見書を作成した一級建築士は、「建築構造技術者が構造計算書を見れば簡単にわかることだ」と指摘する。

 構造計算書は「数字の羅列」が何千ページも続くため、姉歯事件のように巧妙な手口でデータを操作すると偽装を見抜くことは困難だ。だが、今回のDsについては、「ブラックボックス的に隠れているようなことではない」と断言する。建築確認の際に、設計図面で露出柱脚(非埋め込み形柱脚)であること、DsとしてSRC造の数値を用いていることを確認すれば、すぐに「おかしい」と気付くはずだと言う。

施工さなかの阪神大震災でSRC造でも建物崩壊

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新生マンション花畑西

 施工した鹿島はどうか。設計図通り露出柱脚(非埋め込み形柱脚)で施工したから責任を免れるのか。

 一級建築士によれば、構造計算書は、建設工事期間中まで建設現場に備え付けられていなければいけないという。施工業者には、確認する機会はいくらでもあった。

 しかも、柱脚をめぐっては、新生マンション花畑西の建築確認(1994年9月)の翌年1月には、阪神大震災が起き、SRC造の建物が崩壊するという衝撃が走った。「非埋め込み形」の柱脚で、柱脚を基礎に固定していたアンカーボルトが破断したケースも多くみられた。そこで、当時の建設省は「埋め込み形」を事実上推奨する事態にまでいたった。

 この連載(前)で見た鹿島らのプレスリリースというのは、阪神大震災を受けて建設省の推奨によって、「作業工程上優れている施工法」が採用しにくくなったのに対して、「SRC造建物の受注に結び付けていく」ことを目指した鹿島ら3社が共同開発によって、「施工性が優れた鉄骨鉄筋コンクリート造柱脚の設計施工指針」を策定したものだった。

 阪神大震災当時、「新生マンション花畑西」は建築確認が終わり、施工中だった。柱脚について世間の注目が集まり、建設省が対応に乗り出した時期に、柱脚について熟知し、「SRC造建物の受注に結び付けていく」ために設計施工指針を共同開発までするスーパーゼネコンが、「埋め込み形」で構造計算されているのに「非埋め込み形」で施工する矛盾に気付かなかったというのは、信じがたい。

 鹿島広報室は取材に対し「係争中の案件につき回答は控えさせていただきますが、当社の主張は裁判で丁寧に説明したいと考えております」としているので、裁判での「丁寧な説明」を期待したい。

(了)
【山本 弘之】

 
(前)

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