2024年03月29日( 金 )

韓国経済ウォッチ~北朝鮮の砲撃、一触即発(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 最近、北朝鮮では朝鮮労働党の高官が相次いで処刑されるなど、今までになかったことが北朝鮮内部で起こっている。幹部らが金正恩に少しでも忠誠を疑われると処刑されるような恐怖政治が進み、その結果、強硬派が台頭しているようだ。
 強硬派の台頭は2010年3月の韓国海軍哨戒艦撃沈事件や、延坪島砲撃などを起こしている。この2つの件を指揮したのは、偵察総局の金英哲(キンヨンチョル)総局長であると噂されている。
 金総局長はその後、今年になって朝鮮人民軍の大将から上将に降格されたという。しかし、今年の7月下旬、大将に復帰していた金英哲総局長は、復帰後の最初の挑発が「地雷埋設」だったのではないかと韓国側では推測している。今回の「砲撃」という強硬な行動についても、金総局長の関与または影響があるだろうと韓国のマスコミは報じている。
 12年に発足した金正恩体制下では、金英哲総局長だけでなく、側近・幹部がしばしば降格し、しばらくしてから復帰するケースが多い。金正恩は、このように忠誠を競わせる戦略と恐怖政治で、北朝鮮体制を維持している。

20150824_012 金正恩体制下では、おじの張成沢(チャン・ソンテク)氏をはじめ、80人以上が処刑されたと言われており、恐怖政治が広がっているのが実情だ。これはある意味、金正恩体制がまだ強固になっていないという証拠で、金正恩体制は体制への揺さぶりを一番警戒している。

 そのようななかで、金正恩体制の実態などを拡声器で大音量で流し続ける韓国の政治宣伝放送に、北朝鮮は極めて敏感に反応したとも言える。このような恐怖政治と粛清などによって、党と軍との緊張が高まっていることも事実のようだ。

 今回の砲撃事件は、また党と軍の緊張、葛藤などを解消するための方策でもあるという分析もある。張成沢(チャンソンテク)が処刑された後、外貨獲得の手段を奪われて軍部に不満が溜まっていたが、今回の砲撃はそれにはけ口を与えるような効果もあるとのことだ。それから、もう1つは、北朝鮮の住民に体制の優位性をPRする効果を金正恩は狙ったという分析もある。まだ実績もなく、基盤が磐石ではない金正恩体制にとって、今回の砲撃事件で、北朝鮮は韓国より優位であるような錯覚を北朝鮮の住民に持たせ、金正恩の実績をつくるという側面もあるようだ。

 それでは、北朝鮮と韓国の軍事力を比較したらどうなるだろうか。

 アメリカ・ヘリテージ財団の報告書によると、韓国の軍事力は北朝鮮に比べて劣勢であるとのことだ。装甲車とヘリコプター以外は、韓国が装備においても劣っているようだ。
 最近の戦争は、従来の戦争とは概念が違うが、軍人だけを比較すると、韓国は63万名で、北朝鮮は119万名である(北朝鮮には20万名の特殊部隊がいる)。何よりも、北朝鮮は10個程度の核ミサイルを保有していて、韓国にはそれが何よりも脅威である。韓国の国防予算は北朝鮮の44倍で、予算のことだけを考えると韓国の戦力が北朝鮮に比べて劣っているということはなかなか納得しにくい状況だ。

 しかし、現代の戦争は軍事力だけではく、経済力がモノを言う時代なため、仮に今、戦争になれば、韓国は1週間以内に北朝鮮を壊滅できると指摘する軍事専門家もいる。それにアメリカの空母が6隻もアジアに来ているので、北朝鮮が戦争を起こすことはほぼ不可能に近いという指摘もある。
 また、戦争は相手が気づいていないときに奇襲することが多く、今のように双方が警戒を緩めていないなかでは、なかなか戦争を起こすことは難しいのではなかろうか。北朝鮮は挑発によって相手から制裁を受け、その制裁を体制固めの方法として利用したいという計算もあるようだ。
 韓国と中国の急接近を牽制するためなど、いろいろな布石から今回の砲撃は発生している。韓国は冷静かつ断固とした対応をとることになるだろう。今回の砲撃がまるで戦争に発展するかのような報道も多いが、今回はそのような事態にはならないと筆者は判断している。

(了)

 
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