2024年04月25日( 木 )

日常会話だけできる都合のよい奴隷!(4)

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キャッチアップ戦略で2級市民、奴隷を目指す?

 ――セミリンガルは悲惨ですね。では、日本人が正しく「英語」を学ぶためにはどのような戦略がありますか。

school_gakusei 永井 いたずらに、焦燥感、強迫観念みたいなものを持たずに、自分の目的に合せて正面から向き合えばよいと思います。
 先ず、日本人は英会話を「白人のネイティブに習いたい」と言います。日本人は英語の母語話者であるアメリカ人、イギリス人が話す英語が正しい英語と信じ込んでいます。
 もし本当にそこを目指すのであれば、自ら2級市民、奴隷を目指していることになります。その戦略は「キャッチアップ戦略」だからです。キャッチアップ戦略とは、よその人々の規範を理想化し、その人々に近づくことを目指す戦略のことです。こと「英語」に関する限り、近づくことは至難の業、追い越すことはありません。すでに絶対に超えられないゴールが存在しているからです。

 これに対して、よその誰かの規範によらず、自分達独自の規範を打ち立てる戦略が必要です。この戦略をオルタナティブ戦略と言います。日本人の場合、日本人の英語「二ホン英語」を学ぶことがそれに当たります。

ニホン英語は恥ずかしいどころか実に力強い武器

 英米英語を理想とする根拠に、「英米英語が一番通じやすい」という理由があります。それは本当でしょうか。英語は英米英語に限りません。英語には、インド英語、フィリピン英語、ニホン英語など様々です。

 ここに、色々な国の人の話す英語を色々な国の人に聞かせて、どのくらい聞き取れたかを調査したデータがあります。そこでは、ニホン英語の通じやすさは75%で、調査された国9ヶ国の中で3番目になっています。アメリカ英語の通じやすさは55%で、香港人に英語の次に低いのです。ニホン英語は恥ずかしいどころか実に力強い武器であることが証明されています。おまけに、英米人など母語話者にも結構通じることが分かっています。

 2010年以来、日本の貿易総額の過半数をアジアとの貿易が占めており、日本人が商業活動で英語を使う場合の8割近くはアジアの人々が相手です。一般に外国語話者にとっては,母語話者の英語よりも、外国語話者の英語の方が聞き取りやすいことになっています。

 以上はよく知られた事実ですが、多くの国民の皆さんはご存じなかったかも知れません。
 日本の大企業は外国人持ち株比率が急激に上昇、アメリカの代弁者となる傾向が日増しに強まっています。大企業の意向は政治献金を通して政策に反映され、アメリカに都合のよい英語教育が導入されていくことになります。一方、世論形成に大きな役割を果たすマスメディアはその大企業が広告主になっています。その結果、残念ながら、この種の情報はマスメディアに載ることがほとんどないからです。

国民の98%は勉強しても、機械翻訳に勝てない!

 もう一つ別の話をします。これまで多くの人々が英語を勉強してきたことの理由の1つは、日常会話の域を出ないコミュニケーション手段としての英語です。もしそうであるならば、現在は立派にその代わりをするものが存在しています。それが機械翻訳です。

 標準語による日常会話、例えば旅行会話程度のものであれば、すでにTOEIC900点レベルに到達しており、これからの急速なAIの発達でさらにレベルが上がっていくことが確実視されています。TOEIC900点は受験者の上位2%に相当、大企業の国際部門が社員に期待するレベルです。つまり、小学校から何百時間、何千時間勉強しても、現時点ですでに、98%の国民は手軽に使えるスマートフォンのレベルを超えることはできないということが分かっているのです。外国語のコミュニケーションでは、伝えたいことの7、8割が伝わり、相手の内容も7、8割も理解できれば上出来です。少し前までは、機械翻訳は「正確でない」、「機械翻訳は役に立たない」、「間違いがある」などという言葉が一人歩きしていました。その場合は、「完璧な日本語・英語」と「機械翻訳の不完全な日本語・英語」だけを比較しています。しかし、良く考えて見るとそれは公平な比較ではありません。

すでに無駄ではなく、やったらマイナスなことに

 正しくは「英語を学習するのに要する膨大な時間と労力」+「それによって得られる“そこそこ”の英語力」の総計(A)と「全く学習の必要がないこと、何年も勉強する必要が無いこと」+「ボタン1つで得られる不完全だが何とか使える英語力」の総計(B)を比較しなといけません。現時点で、A-Bの数値は大幅なマイナスであり、これからそのマイナスは拡大するばかりです。つまり、機械翻訳を使うことは無駄ではなく、使わないと損することになるのです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
nagai_pr永井 忠孝(ながい・ただたか)
1972年、熊本市生まれ。東京大学文学部言語学科卒。東京大学大学院人文社会系研究科言語学科博士課程単位取得済退学後留学。米アラスカ大学フェアバンクス校大学院人類学科にて博士号取得。米アラスカ大学フェアバンクス校外国語外国文学部 助教授を経て、青山学院大学経営学部 准教授。専門は言語学(エスキモー語)。著書に『北のことばフィールド・ノート』(共著)など。

 
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