2024年04月19日( 金 )

JR九州初代社長として九州観光界に貢献(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

NPO法人 福岡城市民の会 理事長 石井 幸孝

 九州の鉄道に「観光輸送」の視点を取り入れる

fukuokajo2 福岡市は海、空、陸などの交通網の拠点として、九州の要となってきた。アジアにも近いことから、その地の利を生かした国際観光都市となることを今後の目標に掲げている。

 「福岡を観光都市に」というスローガンを語るにあたって欠かすことができないのが、JR九州初代代表取締役社長の石井幸孝氏だ。陸の交通網の代表、JRに国鉄時代から勤め、日本全国を貫く規模の国営鉄道が分断・民営化されていく過程をつぶさに見てきた。当時の国鉄は官庁体質から抜け出ることができず、再建計画を立てても頓挫を繰り返し、運賃の値上げに財政の立て直しを依存していた。

 石井氏は赤字路線を抱え苦しんでいた地方の1つ、九州の責任者として改革に携わり、鉄道以外の業種での営業を自ら行うなど、民営化準備から移行、軌道に乗せるまで指揮を執った。労使運動に明け暮れる職員らの意欲が再建に向けて前向きとなるよう力強く鼓舞した。不安を抱きながら現場に出ていた職員たちは、強い牽引力を持つ石井氏を頼りがいのある存在とみなしていた。改革中に行われた人員削減で行政団体に受け入れられた元国鉄職員が、石井氏がJR九州の代表取締役社長となると聞いて、「国鉄もこれから良い会社になると思う」と呟いていたのを覚えている。

 その期待に、石井氏は応えた。1986(昭和61)年に九州総局長となり、87年、民営化で発足したJR九州の初代社長となった。本州から鉄道を通じてさまざまな目的の人々が九州を訪れるようになるなか、石井社長は国鉄時代と同じ轍を踏まぬよう、運賃の値上げではなくサービスを改善させることに尽力し、国鉄のイメージを払拭していった。国鉄入社時代は技師として工場勤務から始めたという石井氏は、根っからの鉄道マンであり、「経営者として最も重視したことは、事故を起こさないこと、安全の徹底」だった。

 そして、石井氏が生み出す斬新な企画も、鉄道を知り尽くしているからこそ生まれるものだった。たとえば九州の鉄道は、本州と違って都市圏への輸送、都市間の輸送、という視点だけでは語れない。これを都市ではなく九州各地にある魅力的な土地、観光地という視点で見直し、「観光輸送」という発想に切り替えた。車輛についても「鉄道のデザインを重視し外部へ車両デザイン開発を依頼」という、今までの国鉄では誰も着想しなかった案を採用した。依頼先として選ばれたのが、当時はまだ無名の新進デザイナーだった水戸岡鋭治氏だ。氏が手がけた「ゆふいんの森」「つばめ」「ソニック」など数々の魅力的なデザインの列車が九州を縦横に走るようになると、何よりもまず九州に住む人々が、自分たちの住む場所が魅力的な観光地であることを再認識させられた。さらに石井氏は、博多と釜山を結ぶ国際航路「ビートル」を走らせるなど、日韓交流にも力を入れた。

福岡に求められる観光都市としての意識

福岡城跡<

福岡城跡

 鉄道や観光以外でも、地域経営改革、経済界活動など、石井氏の活躍は広範囲におよんだが、無名高名を問わず、誰とでも分け隔てなく対等に接する博愛精神は、どの活躍の背景にもあった。代表を務める団体も多いが、そのなかの1つ、NPO法人鴻臚館・福岡城跡歴史観光・市民の会(福岡城市民の会)での理事長としての活動は、一般市民にも広く知られている。

 同会は、福岡城の再現を提唱するなど、福岡市を観光地として魅力ある街にしようとしている。石井氏の主張はこうだ。「九州新幹線の開通は、福岡市が新幹線の終着駅ではなくなり、素通りされてしまう可能性があることを意味しています。これは観光都市として大きな損失です」。そして、「今後、福岡が観光都市として認められるためには文化力が問われる」として、福岡城を復元することで都市としてのオリジンを明確に示そうと提案している。

 また石井氏は、「福岡は本当に住みやすい都市なのでしょうか」と手厳しい意見も呈している。「都市交通の結節の悪さ」「観光都市としての意識の低さ」など、福岡市には多くの課題が残るという。石井氏は「今の福岡は新しい都市としての魅力はさまざまあるが、福岡固有の歴史・文化に基づいて市民が誇れる大きなランドマーク的な場がない」と嘆く。
 鉄道という交通手段は、人を物を快適に各地に運ぶ。そして鉄道を使って人々が訪れた先では、住民たちが自分たちの住む地域には希求力があると自覚することで、地域が観光地として育っていく。だからこそ石井氏は、福岡市を市民自身が観光地として育てていけるような魅力ある文化を育てようとしている。今、福岡には外国人観光客が増え、今後、2020年のオリンピック開催に向けて、さらに増加すると見込まれている。だが、たしかに石井氏の言う通り、国内外から福岡へ訪れた人々を観光地へ案内しようとしても、思い起こすのは福岡市外ばかりだ。

(つづく)

■INFORMATION
NPO法人 福岡城市民の会
理事長:石井 幸孝
所在地:福岡市中央区赤坂1-12-15 読売福岡ビル7F
設 立:2004年9月
TEL:092-716-8238
URL:http://fukuokajokorokan.info/

<プロフィール>
isii_pr石井 幸孝(いしい よしたか)
1932年生まれ。東京大学を卒業。55年日本国有鉄道(国鉄)に入社。その後管理職として手腕を発揮し、分割・民営化によって87年に発足した九州旅客鉄道(株)(JR九州)の社長に就任。多方面の団体でも要職につき、兼職歴は20団体におよぶ。

 
(後)

関連記事