2024年03月30日( 土 )

日本を徘徊する「新自由主義」という妖怪!(5)

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日本一新の会 代表 平野貞夫氏
日本金融財政研究所 所長 菊池英博氏

 今、日本国民の多くは「何かがおかしい?」と言いようのない不安に駆られている。私たちの周りを不気味な空気が取り囲む。経済で言えば、アベノミクスは2年半以上を経過したにも拘わらず、経済はマイナス成長で、実質所得は2年連続して下がっている。明らかに失敗である。このまま、金融緩和を続けても、一部の大企業、富裕層に富が集中するだけで、99%の国民の生活は未来永劫に豊かにはならない。このことは、内外の歴史が証明している。一方、政治で言えば、「安全保障関連法案」は完全に違憲であり「戦争法案」である。この先、自衛隊員はもちろん、多くの国民が「戦争」や「テロ」という危険に直面する。

 自分の息子・娘、孫の将来はどうなってしまうのか。先月30日には、女性、学生を含む若者など市民12万人が国会を取り囲んだ。しかし、「なぜこのような理不尽がまかり通るのか、そして阻止できないのか」がわからない。

 近刊『新自由主義の自滅』(文春新書)で今注目の日本を代表する経済アナリスト、菊池英博氏と元参議院議員で小沢一郎氏の懐刀、平野貞夫氏にその“理不尽”の正体を探ってもらった。

歴代の政治家は日本の国益の為に体を張ってきました

 ――『対日年次改革要望書』の件は、知らなかった国民も多いと思います。確かに衝撃的な事実ですが、日本の政治家はアメリカからの要求には全く無抵抗になってしまうのですか。

taidan 平野 そんなことはありません。日本の政治が根本的に悪くなってしまったのは「新自由主義」を日本に本格的に導入、「郵政民営化」をした小泉政権からです。その後は、民主党の鳩山政権(小沢幹事長)を除くと、民主党も自民党も対米従属一辺倒になっています。  
しかし、過去に遡れば、同じ様にアメリカからの強い要求はありましたが、歴代の政治家は日本の国益のために体を張っています。時にはアメリカを退け、時には日米両国の妥協点を探っていたのです。

 実はアメリカから郵政民営化の話が初めて出たのは橋本内閣の時です。当時、私は参議院議員で与野党郵政改革議員連盟の副会長をしていました。当時の橋本内閣では、郵政民営化の考えはなく、しかもそれで政治的に日米関係はおさまっていました。
それを無理に変えたのが小泉政権で、子ブッシュ(ジョージ・W・ブッシュ)の選挙資金を捻出する為だったらしいのです。郵政民営化は、日本郵政の金融資産(約300兆円)がアメリカに献上されることを意味し、子ブッシュはそれで支持者を納得させ、選挙に勝利したのです。当時、小泉政権の閣僚級の側近がアメリカに飛び、工作をしたと言われています。

問題なのは国内にいる「レントシーカー(利権屋)」です

 菊池 平野先生のおっしゃることはよくわかります。アメリカは強く要求するのですが、それに対して論理的な説明ができれば、ある程度、アメリカを納得させることはできるし、理解してくれます。これは私が親しいFRB(連邦準備制度理事会)関係者から実際に聞いた話ですから間違いありません。
むしろ問題なのは国内にいる、「レントシーカー(利権屋)」(政治によって生み出される特権的利益を追い求める人達)です。日本の官僚、与野党の政治家、大マスコミ、経済学者、銀行関係者、警察、検察にもいます。

 2005年の郵政解体は日本の国益に大きな禍根を残しました。私は当時「郵政公社は日本の国債の33%(166兆円)を持っているので、もし郵政が民営化されれば、そのお金はすべてアメリカに流れる」と講演しました。今まさにアメリカがこれを実現する時が迫っています。偶然かも知れませんが、その額(約150兆円)は中国が持っているアメリカ国債の額にほぼ一致するのです。

日本人は“しかたがない”症候群に罹りやすいのです

 ――だんだん時間もなくなってきました。最後に平野先生にお聞きします。「集団的自衛権」などその典型例ですが、かなり問題が明確になっていながら、政治家も国民も、その多くは正しいと思われる方向に一歩を踏み出せません。これはなぜでしょうか。

 平野 難しいご質問ですね。政治家について言えば、2世、3世などの影響で、明らかにレベルが低くなっており、日本の国益のためにアメリカと対等に議論できる、体を張る政治家はほとんどいなくなりました。何よりも自立して、意見を言う政治家がいません。

 国民の行動形態の分析は難しいのですが、私は1つ面白い見方をしています。日本人は小沢一郎の言う「“しかたがない”症候群」に罹りやすいのではないかという点です。つまり、逆らえない対象を自分で勝手に作ってしまうのです。

 その対象は戦前ですと天皇で、戦後ですとアメリカになります。今の対米従属は、戦前の天皇従属の焼き直しではないかと考えることがよくあります。このように考えると、官僚、政治家の行動、大マスコミの報道さえもよく理解できます。その最たるものが今回の「戦争法案」対する、政治家、多くの国民の行動です。

 しかし、女性、学生を含む若者が先ず眠りから覚め、さらに多くの市民がその眠りから覚めつつあります。そのことは先月末、市民12万人が国会を取り囲んだことに表れています。

安倍首相がやった経済政策はほぼ全て間違っています

 ――菊池先生には、現在進行中の安倍政権の新自由主義型経済政策「アベノミクス」についてコメントを頂けますか。

 菊池 安倍首相がやった経済政策はほぼすべて間違っています。特に、アベノミクス「第3の矢」は成長戦略どころか、日本のあらゆる国家システムを破壊、我々日本人の富が米国を中心とする外資、大企業、一部の富裕層の利益になりかねない危険な経済政策です。
しかも、その中味は、与党内部で自発的に考えられたものではなく、外部から仕掛けられたものが数多くあります。「農協改革」については、在日アメリカ商工会議所からの書面による要望書が確認されています。以下、簡単に5本の柱でご説明します。

1.税法の破壊―法人減税:大企業減税、中小企業増税、消費税増税は、まさに新自由主義者の目標です。この結果、企業格差が拡大するばかりでなく、結局経済が停滞し、雇用機会も失われ、経済効果はマイナスでデフレとなります。
2.労働法の破壊―労働時間管理から経営裁量労働制へ:「派遣法改訂」、「残業代ゼロ法案」、「金銭解雇事由法案」で労働法は破壊されます。
3.医療の破壊―混合診察をテコに国民皆保険の崩壊:「混合医療を認めさせれば自然に国民皆保険は崩壊していく」と公言する米国高官もいます。
4.国家主権の破壊―「戦略特区」という租界:「特区」構想は、2002年10月の『対日年次改革要望書』に初めて書かれました。当時の要望書には、特区で成功した事項は可及的速やかに全国レベルに拡大することを要求しています。特区を突破口として、日本の経済社会構造を破壊する「外国企業の誘致のために、“不便な規制”を外させる」のが米国の目的で、この特区はTPPの受け皿にもなっています。
5.農業の破壊―全中(全国農業協同組合中央会)の解体と食糧自給率低下:世界経済の根幹をなすドル基軸体制は、「武力」と「外交力」に加えて「食料」によっても支えられています。それほど食料自給率は大切なものです。

 以上からもおわかりになると思いますが、国民が知らないうちに日本が取り返しのつかない破壊を受けることになります。今は、そういう意味で、戦後最大の危機と言っても過言ではありません。

 本日私が申し上げましたことは、近著『新自由主義の自滅』(文春新書、7月20日発行)に、経済に詳しくない方でも分かるように易しく書いてあります。ぜひ、書店等でお手にとっていただきこの危機感を共有できたら幸いです。

 ――先生方、お忙しい中ありがとうございました。


【後記】実に面白い対談だった。文章にできない際どい話もたくさんあった。最後にお2人に読者へのメッセージをお願いした。すると偶然にも「歴史を正しく勉強して欲しい」と一致した。現時点で、大マスコミ(NHK、新聞、民放)はすでに真実の情報を流せなくなっている。これからは、日本史、世界史などをしっかり学習して、ものごとの判断を自分でしていかなければならない。しかし、そこには必ず真実が埋まっているという教えである。

(了)
【金木 亮憲】

 <プロフィール>
hirano_pr平野 貞夫(ひらの・さだお)
 1935年、高知県生まれ、日本一新の会代表。法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻修士。衆議院事務局に入局。園田直衆院副議長秘書、前尾繁三郎衆議院議長秘書、委員部長等を歴任。92年衆議院事務局を退職して参議院議員に当選。以降、自民党、新生党、新進党、自由党、民主党と一貫して小沢一郎氏と行動をともにし、小沢氏の「知恵袋」、「懐刀」と呼ばれている。著書として、『平成政治20年史』、『小沢一郎完全無罪「特高検察」の犯した7つの大罪』、『戦後政治の叡智』、『国会崩壊』など多数。



 <プロフィール>
kikuti_pr菊池 英博(きくち・ひでひろ)
 1936年、東京都出身、日本金融財政研究所所長。東京大学教養学部教養学科(国際関係論、国際金融論専攻)卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)で国際投融資の企画と推進、銀行経営に従事。ミラノ支店長、豪州東京銀行取締役頭取などを歴任。95年文京女子大学(現文京学院大学)経営学部・同大学院教授。「エコノミストは役に立つのか」(『文藝春秋』2009年7月号)で「内外25名中ナンバー1エコノミスト」に選ばれる。著書として、『増税が日本を破壊する』、『そして日本の富は略奪される』『新自由主義の自滅』など多数。

 
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