2024年04月20日( 土 )

韓国経済ウォッチ~ナノテクノロジーの夢(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 前回触れた「7つの戦略技術」を詳しく見てみると、次のようになる。

sora3 まず1番目の分野としては、「3次元(3D)ナノ素子」分野である。モノまたは人体に付着できる3Dナノ素子は、ウェアラブル電子製品、またはロボットの触覚センサーなどを実現しようとするならば、なくてはならないコア技術である。ロボット用の触覚センサーの市場規模は2020年に13億ドルが見込まれていて、関連市場を入れると、とても有望な市場である。

 2番目の分野は「モノのインターネット(IoT)応用」分野である。リスク、危険などをリアルタイムで感知して知らせるために必要な、超小型で低電力の知能型センサーを開発するという内容である。

 3番目の分野としては「食品安全センサー」が選ばれた。貯蔵と加工、流通中の食品から出てくる微量の有害成分を分子レベルで検出することによって、食の安全の確保するために必要な技術である。

 4番目の分野としては、「機能性ナノ繊維」である。人体の情報に反応する感応型ナノ繊維と、電気的機能、エネルギーの捕獲機能を持ったナノ繊維素材を開発するという内容である。

 5番目の分野としては「白金を代替する触媒用のナノ素材」である。化学反応の速度を調節する機能をする触媒は、白金(Pt)などの貴金属である場合が多い。世界の白金生産量の58%は、触媒として使われているほどだ。政府では、貴金属をまったく使わないか、使うにしても表面に超薄の状態で使うことができるようなナノテクノロジーの開発を支援する予定である。

 6番目の分野としては、「稀有元素を代替する産業用ナノ素材」である。たとえば、インジウム(In)は稀有元素であるだけに、タッチスクリーンなどに使われている「インジウム・スズ酸化物」をグラフェンなどのナノテクノロジーで代替できるように、技術開発する予定である。

 最後の7番目に、「省エネ―水処理システム」である。この技術の開発に成功すれば、世界に通用する技術になり得る。水処理システムに使われる分離膜、または電極を、ナノテクノロジーを適用してつくることで、エネルギーの消費を画期的に減らす計画である。世界の淡水化プロジェクトの産業規模は、2010年の23兆ウォンから20年には55兆ウォンへの成長が見込まれているため、経済の波及効果の大きい技術でもある。

 政府は、既存の製造業の会社がナノテクノロジーを活用した新製品の開発と、新しい工程を試してみることを行いやすくするために、全国の主要拠点6カ所に、微細工程用のインフラであるナノファブを設けることにした。その他に、サイバー空間でナノテクノロジーを開発するときに必要な計算科学サービスを提供するプラットフォームと、ナノ安全統合データを構築することによって、完璧なインフラを整うことを目指している。

 このほかに、韓国政府では、ナノ融合製品に対する試作品の製作と試験、分析、認証、評価、需要先の発掘、需要先とのマッチングなど、中小ベンチャー企業の技術事業化を支援しようとしている。ナノテクノロジーを活用して、これから世界的に通用する企業が、韓国で出現することを政府は願っている。

 以上で見てきたように、各国のナノテクノロジーに対する期待は大きい。今まで科学技術は、より高度化するにつれて、専門化していった。しかし、ナノテクノロジーによって専門分野の間に共通の基盤ができて、深い結びつきが生じてくる。物理、化学、機械、材料、電気、電子、生物、医学など、それぞれその分野の専門家が存在していたが、ナノテクノロジーはそれを統合する役割も果たしている。
 ナノテクノロジーは、私たちが知らないうちに私たちの生活のなかに深く入り込んでいて、ナノで対応することが常識のようになっている。またナノテクノロジーは、今まで探索できなかった世界を、私たちに解明してくれる役割も果たしている。

(了)

 
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