2024年04月20日( 土 )

経理支援ビジネスの競争激化で増加する税理士の「名義貸し」(後)

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税務調査で納税者側にも影響

office ただし、正式に税理士に税務書類の作成を依頼すればそれなりの費用がかかるため、格安の料金を維持するのは困難。そこで、税理士の印鑑だけを借りる悪質な「名義貸し」が行われる。過熱するサービス競争は、業者や税理士だけでなく、納税者のモラル低下にもつながっている。「名義貸し」と同じく処分の理由となる「脱税指南」は、経理コンサルが提供する知識をもとに納税者側が顧問の税理士に頼みこみ、税理士が「顧問契約を維持するためにやった」というケースもある。

 もちろん、税理士のほうも「名義貸し」が法に触れることを知っている。「税務書類に目を通さず、いわゆる“目くら判”を押すことはなかなかないだろうが、計算ミスには気づくことはあっても完璧にチェックすることは不可能。とくに税制度に変更があった直後は、その変更点が反映されていないことを不審に感じた税務署が調査に入り、『名義貸し』が発覚する」という。その場合、納税者のところ(事業所など)に税務署が調査に入ることもある。そこで立会人として、“印鑑を押しただけ”の顔も見たことがない税理士が登場するのだ。困惑のなかで時間をとられるだけではなく、税務書類の作成がやり直しとなることも大きな負担になるだろう。実害は、“安かろう悪かろう”で済むような話ではないのだ。納税者側は、このようなリスクを回避するためには、税理士が直接的に書類作成に関わっているかどうかをしっかり確認する必要がある。

消費再増税で発覚件数が増加?

 一方、消費再増税にともない、品目によって税率が異なる軽減税率が導入されることで、「名義貸し」の発覚件数が増えることも考えられている。政府は、17年4月に消費税を10%に増税する際、財務省が提案していた還付案を撤回し、食料品などの生活必需品の税率を軽減するために必要な具体的な制度の検討に入った。品目ごとに税率が異なることで税務申告の作業が複雑になれば、細かい日々の仕訳から具体的に把握する必要があり、簡単なチェックでは、書類の不備に気付くことは今以上に困難になる。そうした不備がきっかけとなり、実態は「名義貸し」だったということが発覚するという流れだ。

 そこで、「税理士」を名乗る人物が、本当に資格を持っているかを確認するには、日本税理士会連合会が設置している「税理士情報検索サイト」 が役に立つ。この検索サイトでは、名前や所在地、地域や所属する税理士会などで検索することができる。税理士は税理士会に登録していなければ業務を行うことができないため、検索で出てこない人物は疑わしいと思ってよいだろう。

 繰り返しになるが、無資格者が税務書類の作成という『税理士業務』を行うことは法で禁止されている。九州北部税理士会では、「納税者に著しい害をおよぼす」として、ホームページなどで「無資格者にご注意を!」といった注意喚起を行っている。税務書類の作成だけではなく、無償で税に関する相談を受け、アドバイスを行った場合も、税理士法に抵触することになる。無用なリスクを避けるためにも、このことをしっかり頭に入れておくことが肝要だ。

(了)
【山下 康太】

 
(前)

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