2024年03月29日( 金 )

財務省・佐藤慎一主税局長の蹉跌(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

zaimusyou 消費税を10%に再増税する際に、「マイナンバーカード」を使って還付する制度を仕掛けた財務省は、近年稀にみるほどの完敗をくらった。仕組みが複雑すぎるうえ、どうみても財務省がケチっているとしか見えない“愚策”ゆえに、一般世論が猛反発。結局、撤回に追い込まれ、仕掛けておきながら財務省は何も得るものはなかった。この経過を分析すると、次期事務次官就任に「王手」をかけていた主税局長・佐藤慎一氏が自らの功を焦るがあまりの“自爆”という面が濃厚だ。エリート官僚、佐藤慎一氏の蹉跌を検証する。

 ことの発端は、麻生太郎財務相が9月初め、トルコで開かれたG20で、同行した記者団に話したことから始まる。ちょうどG20は、その直前の8月下旬からマーケットに大きなインパクトを与えていた中国経済の変調「チャイナショック」が、話題の中心になるはずだった。だが、麻生発言を受けて各紙は、それをかき消すように、マイナンバーカードを使った還付制度を大々的に報道。これによりG20の本来のメインテーマであるチャイナショックは、すっかり後景に退いた。

 安倍晋三首相は常々「リーマン・ショックのような大きな経済変動がなければ」という条件付きで、2017年4月に消費税を10%に再引き上げすることを認めていた。ところが、チャイナショックによって世界の工場である中国の輸入は2ケタ減という大幅減少に見舞われた。チャイナショックは、リーマン・ショックのように一気に津波のようには世界経済を襲わないが、電子部品や素材メーカー、海運会社などを通じて、じわりじわりと「負のインパクト」が波及する可能性はある。
 そこで、チャイナショックがリーマン並みの大きなインパクトを経済に与え、それによって安倍首相が再び消費税の引き上げを先送りする名目に使うことを、何としてでも避けなければならない――。「おそらく、佐藤君には、そんな計算が働いたのだろう。本来の争点を隠し、自分たちが意図する消費税再増税に世間の目を向かせるアドバルーンに違いない」。霞が関の官僚の手練手管に詳しい元財務官僚はそう指摘する。

 麻生大臣が唱えた還付制度とは、消費税が10%に再増税された際に食料品(酒類を除く)に限っては2%の増税分に相当する給付金を事後に納税者に還付するとことにし、この還付にあたってはこれから導入されるマイナンバーを使って算出し、上限は年4,000円にする、というものだ。西欧諸国では食料品、書籍・新聞に対して軽減税率が適用されるのが一般的で、与党の公明党もそれを望んでいたが、財務省は税金のとりっぱぐれが増える軽減税率適用については及び腰で、その次善の策として打ち出したのがマイナンバーを使った還付制度だった。

 しかし、たった4,000円の還付のために、まだ海のものとも山のものともつかないマイナンバーを使って給付額を算出しなければならないなど、納税者からすると、やたら手間がかかるわりにはメリットが少ない。人を馬鹿にしたような案だった。

 もちろん麻生大臣が自らこんなアイディアを思いつくはずがない。振り付けたのは、財務省の佐藤慎一主税局長だった。

(つづく)
【ジャーナリスト・財研一郎】

 
(中)

関連記事