2024年04月19日( 金 )

TPP大筋合意アトランタ現地報告(1)~山田正彦元農水相

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 TPP協定文書案約1,000ページがニュージーランド政府によって公表された。米国アトランタで開かれたTPP閣僚会議の「大筋合意」の正体と舞台裏について、9月30日から現地入りした「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」の山田正彦氏(元農水相、弁護士)にインタビューした。山田氏は、「日本政府は、唯一メリットのあった自動車でも、農業、医療でも、譲りに譲って、国を売り渡した」と、“1人負け”の日本政府を批判。「10月14日から日本が主導して、成田で各国の交渉官を呼んで秘密裏に細部を詰めた」として、「大筋合意」後に突貫工事で協定文書づくりを行った裏舞台を明らかにし、「米国が批准することは、このままでは絶対にありえない。闘いはこれから」と語った。

(聞き手・山本 弘之)

アトランタ後、10月14日から日本が主導し細部を詰めた

 ――アトランタ閣僚会合は、2日間の予定が延長され、現地から山田先生の「大変なことになってきた」との知らせに、危機感を持っていましたが、10月5日の「大筋合意」の正体、なぜ急転したのですか。

山田 正彦 氏<

山田 正彦 氏

 山田 アトランタでの閣僚会議後、10月14日から日本が主導して、成田で各国の交渉官を呼んで秘密裡に細部を詰めたのです。アトランタでは大筋合意といっても、日本政府が単に「合意した」と言っただけで、普通は合意したら合意文書や協定書に署名するが、各国何も交わさなかった。米通商代表部(USTR)のフロマン代表は記者会見で、「これは、原則的合意か」と質問され返答できなかった。当時の他国の新聞などの報道を見ても、マレーシアでは「合意ならず」となっていた。米国内のメディアも合意とは言っていない。米国は国内事情があるから、米議会がフロマン代表に「交渉をやめてすぐ戻ってこい」と求め、「フロマンを参考人招致する」と議会が騒いだほどだ。
 甘利大臣が「この大筋合意は日本が一生懸命やらなければできなかった」と最近ブログで書いていた。日本が一気に合意に持ち込もうと仕組んだものだ。
 各国は、国益を譲らず、二国間交渉でも主張したが、日本はアトランタでは交渉をほとんどやっていない。というのは、すでに日本は、前回7月のハワイの閣僚会合でカードを切ってしまい、降りてしまったからだ。アトランタでは交渉のカードが残っていなかった。日本は、ハワイで、どんなことがあっても米国はまとめると思って、肩透かしをくったわけだ。
 だから、今回のアトランタでは米国がいつものようにしつこく強引にやろうとしなかった。日本は、このままでは日本の1人負けだから、なんとしても各国を引きずり込みたいという焦りがあって、甘利大臣は各国を脅しつけて、フロマンにも「早くまとめろ」と求めた。

ハワイでカードを切ってしまった日本

 ――アトランタでは、日本の交渉団は2日目以降、手持無沙汰だったというのは、そういうことだったのですね。それが、行司役の実態ですか。

 山田 アトランタでは行司役というより、ハワイで切り札のカードを切ってしまいゲームから降りた焦りだ。関税でも自動車でも農業でも全部、ハワイで譲ってしまっていた。日本政府は、国を売った。売国奴だ。アトランタで10月1日に、あるNGO幹部と会った時に、「自動車関税どうなっているか」と聞いたら、そのNGO幹部が「自動車は、7項目で原産地規制の日米合意ができています」と答えた。各国の首席交渉官とサシで話せる立場にあるから、情報は間違いない。日経が「大筋合意なった。自動車分野で7項目」と書いていた。
 ただ、譲っていたのは、日本だけで、他国は交渉がまとまっていなかった。延長前の10月1日までは、このNGO幹部も「わからない」という感じだった。
 ところが、急転直下、大筋合意になっていった。10月2日になって、連絡があって、「大筋合意になる」と言う。「なぜ?」と聞いたら、「医薬品の保護期間を、オーストラリアが8年で呑んだ。アメリカは砂糖で譲歩し、砂糖を入れることにした。そこで、オーストラリアも呑んだ」と言うのだ。それで動き出した。オートラリアから合意を取り付け、ニュージーランドにも乳製品で日本が譲り、またさらにカードを切った。
 ペルーとチリは最後まで頑張った。ペルーとチリは、TPP協定の適用を10年間保留、発効しない。そして3年間移行期間を設ける。
 マレーシアもさっさと2日目に帰ってしまった。前回と同じく一言も発言しなかった。マレーシアは抜けるかもしれない。マハティールとも何度か会って話しているが、野党も与党も納得しないだろう。
 カナダはけっこう頑張った。カナダも政権交代し、トルドー首相になったから、TPPに批准するかわからなくなってきた。

(つづく)
【取材・文:山本 弘之】

▼関連リンク
・TPP交渉差止・違憲訴訟の会

<プロフィール>
yamada_pr山田 正彦(やまだ・まさひこ)
元農林水産大臣。弁護士。TPP交渉差止・違憲訴訟の会幹事長。1942年、長崎県五島生まれ。早稲田大学卒業。牧場経営などを経て、1993年の初当選以来衆院議員5期。農業者戸別所得補償制度実現に尽力。『輸入食品に日本は潰される』(青萠堂)、『小説 日米食糧戦争 日本が飢える日』(講談社)、『TPP秘密交渉の正体』(竹書房新書)など著書多数。

 
(2)

関連記事