2024年03月28日( 木 )

「一人一票訴訟」最高裁25日判決、違憲状態国会議員の憲法改正発議を許すのか

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最高裁の役割が問われている。

 最高裁違憲状態の選挙で選ばれた国会議員(違憲状態国会議員)には、国会活動を行う正統性がないにもかかわらず、安倍政権が2016年夏の参院選挙後に、憲法改正の発議を狙っているからだ。

 日本の違憲審査権は、何か事が起きてから事後的にしか機能しないが、違憲審査をするチャンスが最高裁判事の目の前にある。
 2014年12月の衆院選挙(295小選挙区。比例区を除く)が投票権の価値が1人最低「0.5票」しかなかったのは、「一人一票」を定めた憲法に違反するとして選挙の無効を求めた訴訟で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)が11月25日判決を言い渡す。17件の各高裁・支部判決の上告審で、最高裁の統一判断を示す。
 これまで最高裁は、投票権の平等に反し違憲状態と判断しながら、選挙を有効としてきた。今回、最高裁は違憲状態国会議員の存在と活動にお墨付きを与えるのか、「違憲状態だから選挙無効で、あなたは国会議員ではありませんよ」と引導を渡すのか、問われている。
来年参院選は「ポイントオブノーリターン」?
 今、最高裁が違憲無効判決を書かないと、日本は2016年夏の参院選挙で「ポイントオブノーリターン」を過ぎるかもしれない。
 安倍自民党が、参院選後に憲法改正をめざし、すでに衆院の3分の2を占める与党が、参院選で77議席以上を獲得すれば、参院でも3分の2を占め、憲法改正の発議ができるからだ。
 戦前は、そもそも国民主権ではなかったので、国家政策上の一線を越えた「満州事変」が「ポイントオブノーリターン」だったと言われる。国民主権であり、言論の自由、表現の自由がある現在の日本では、ポイントオブノーリターンは、「事を起こした時点」、たとえばシリア空爆に参加したとか、地上部隊を送ったとかではなく、言論の自由、表現の自由が停止されたときだ。言論の自由、表現の自由がなければ、形式的に投票権があっても、国民主権は機能しなくなるからだ。
 それを可能にするのが自民党憲法改正草案98条、99条の「緊急事態宣言」だ。安倍首相は緊急事態宣言を「極めて重く、大切な課題だ」と意欲を示している。緊急事態条項そのものは、パリ同時テロを受けたフランスのように、多くの国が持っている。しかし、「私が総理大臣ですから」と言って、立憲主義を無視する首相、内閣に、緊急事態宣言条項を使わせたら、ナチスドイツのように独裁国家が簡単に作れる。
 安保法反対では若者を中心に、市民が「これが民主主義なんだぜ」と行動した。憲法改正が発議されてもまだ国民投票がある。表現の自由も、国民投票の時点では生きている。しかし、9条改正を封印し、環境権など国民受けのいい改正条項をテンコ盛りにし、その中に緊急事態宣言条項も含めた憲法改正案が出されたら、参院選で与党に77議席を与えるような社会情勢で、果たして、憲法改正ノーが多数を占めるだろうか。
裁判所が戦前のような二流官庁に成り下がるのか
 安保法制に対し、最高裁元長官や元判事、内閣法制局元長官、多くの憲法学者が「違憲」と指摘しても、安倍政権は「私人の発言」として聞く耳を持たなかった。
 一人一票訴訟で最高裁大法廷の弁論が開かれた10月28日、東京の司法記者クラブで開かれた原告側の記者会見では、危機感に満ちた発言が相次いだ。
 「国会活動の正統性がない人間が、(憲法改正発議の)3分の2の中にカウントされて、憲法改正が来年の7月に、目の前に迫っているというのが今の日本だ。これを止めるのは最高裁しかない」(升永英俊弁護士)、「最高裁判事は、私人ではない。憲法判断する権限を持っている。『司法ってすごいんだ、こんなことができる』という夢をつぶしているのは、今の司法のあなた方だと(意見陳述で)批判しました」(久保利英明弁護士)、「明確な違憲無効判断を避け続けるなら、民主国家における司法の自滅であり、裁判所が戦前のような二流官庁に成り下がることを意味する」(伊藤真弁護士)。

 最高裁は、司法の独立を投げ捨て、国民主権が死ぬことに加担し、汚辱にまみれるつもりなのか。憲法違反と立憲主義否定の暴走にストップをかける役割が期待される。


【山本 弘之】

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