2024年04月25日( 木 )

中島淳一「古典に学ぶ・乱世を生き抜く智恵」(15)

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劇団エーテル主宰・画家 中島淳一氏
 己の創作領域のみを棲家とし、その域を超えた活動には慎重になりがちな芸術家が多いなか、福岡市在住の国際的アーティスト、中島淳一氏は異色の存在である。国際的な画家として高い評価を得るだけでなく、ひとり芝居に代表される演劇、執筆活動、教育機関での講演活動などでも幅広く活躍している。
 弊社発行の経営情報誌IBでは、芸術家でありながら経営者としての手腕を発揮する中島氏のエッセイを永年「マックス経営塾」のなかで掲載してきた。膨大な読書量と深い思索によって生み出される感性豊かな言葉の数々をここに紹介していく。
ドラクロアの言葉に学ぶ~我々の使命は眼のためではなく心のためにつくり出すことである~
中島 淳一 氏

 ロマン主義絵画の巨星として仰がれているフランスの画家ドラクロア(1798~1863)はパリ近郊のシャラントンに生まれる。
 幼い頃より、絵画の天分をあらわし、17歳で、ゲランのアトリエに入門。ルーヴル美術館で、ベラスケスやルーベンスの作品を模写して過去の巨匠たちから多くを学ぶ。
 24歳でサロンに初出品し、センセーションを起こし、作品は国家買い上げとなる。この頃から英語を学び、シェイクスピアに傾倒、微妙な人間関係の内的なドラマの愁いと美学に共鳴、また、ゲーテの作品にも魅了され、熱い魂の絆を感じる。
 26歳、「キオス島の虐殺」を発表。絵画の虐殺と酷評され、反古典主義の騎手となる。すなわち、冷静で優美であることを作品の生命とする古典派と対立し、劇的な流動感、燃えるようなみなぎる生気こそが真の芸術を生み出すという信念のもとに作品を発表し続けることになる。
 65年の生涯で、9,182作品を創出。数多くの名作のなかには「ハムレット」「ファウスト」のための石版画による挿し絵もある。
冷たい正確さは芸術ではない
 「この世に存在するいかなるものにも、たとえどれほど凝視しようとも輪郭線などはどこにもない。何よりも陰影が大事なのだ。光と影によってこそオブジェが立体的に描けるのである」と天才レオナルド・ダ・ヴィンチが宣言し、西洋絵画の神となって以来、みんなその技法を修得することが王道となった。写実のための方法論は次第に形式化され石膏デッサンと人体デッサンの修行に終始して、画家は自ら表現するという根本的意志を喪失し、凡庸化され、平均化された夥しい職人たちを生み出してきた。
 無論、光と影の匠の技のなかに芸術の頂点を極めたレンブラントや、正確無比のデッサン力を誇り、美の極致と評される女性像を描いたアングルもいる。
 そこに登場したのがドラクロアだ。大胆な線描のスケッチをもとに荒々しい筆致と奔放な色彩で独自の世界を表現した。彼は古典派を批判して言う。
 「多くの画家の制作良心とは精を出して人々を退屈がらせる技術を完成させることのようだ。そこには巧妙な筆勢は見られるが、躍動する表現がない。ああ、なんという不幸せ。そのみごとな巧みさを見ていると私の心は冷却し、空想はその翼をつぼめる」。
我々は眼のためではなく、心のためにつくり出すのである
 ある日の夕暮れ、ドラクロアが美術館から外に出ると金色に輝く馬車が目の前を通り過ぎた。その瞬間、彼は紫色を感じる。黄色と紫色の対比関係を知覚したのだ。色は単独ではなく、色と色との関係が絶妙な効果を生むという色彩の秘密を覚ったのである。
 ゲーテもまた紫色のサフランの花を見て、眼を移すとそこに黄色を感じるという体験をし、「色彩論」を書いている。
 この補色原理はドラクロアに色彩画家としての新たなる手法をもたらし、やがて19世紀後半の印象派に多大な影響を与えることになる。
 セザンヌは言う。ドラクロアのパレットは今なお、フランスの最も偉大なパレットである。静寂で悲劇的な作品においても、躍動する作品においても、ドラクロアほど豊かな色彩を駆使した画家はこの世にいない。我々は皆、ドラクロアを通して描いているのだ。
<お問い合せ>
劇団エーテル
TEL:092-883-8249
FAX:092⁻882⁻3943
URL:http://junichi-n.jp/

<プロフィール>
中島 淳一(なかしま・じゅんいち)
 1952年、佐賀県唐津市出身。75~76年、米国ベイラー大学留学中に、英詩を書き、絵を描き始める。ホアン・ミロ国際コンクール、ル・サロン展などに入選。日仏現代美術展クリティック賞(82年)。ビブリオティック・デ・ザール賞(83年)。スペイン美術賞展優秀賞(83年)。パリ・マレ芸術文化褒賞(97年)。カンヌ国際栄誉グランプリ銀賞(2010年)。国際芸術大賞(イタリア・ベネチア)展国際金賞(10、11年)、国際特別賞(12年)など受賞多数。
 詩集「愁夢」、「ガラスの海」、英詩集「ALPHA and OMEGA」、小説「木曜日の静かな接吻」「卑弥呼」、エッセイ集「夢は本当の自分に出会う日の未来の記憶である」がある。
 86年より脚本・演出・主演の一人演劇を上演。企業をはじめ中・高校、大学での各種講演でも活躍している。福岡市在住。

 

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