2024年04月20日( 土 )

壮絶の一言~アビスパ福岡J1昇格!

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 avispa112月6日、師走に入り慌ただしい時期にもかかわらず、大阪に向かう新幹線には、アビスパ福岡のユニフォームをまとった人々が多数乗車していた。会場となったヤンマースタジアム長居の最寄り駅である大阪市営地下鉄とJR阪和線の長居駅からスタジアムへの道には、ホームのセレッソ大阪サポーターがまとうピンクのユニフォームの数が圧倒的ななかで、アビスパサポーターも次々に登場し、決戦の会場へ足早に向かっていた。すでに、戦いが始まっている感があった。

 開始予定の午後3時35分より、2分ほど遅れてキックオフ。曇天模様の空の下、気温約13度、湿度約40%のコンディションのなか、両チーム合わせて22名の選手は、フィールドを駆けめぐっていた。
 前半は、セレッソが積極果敢な攻撃を仕掛けながらも、アビスパのディフェンシブなゲームマネジメントによって、スコアレスでハーフタイムとなった。
 後半も、セレッソの縦横無尽な攻撃が続くなか、アビスパ守備陣の堅守でしのいでいた。ただし、アビスパも攻撃の手を休めていたわけではない。テンポの良いショートパスをつなぎながら中央のスペースの突破や、左右のサイドを有効に使い、さらにはロングパスを駆使した攻撃を仕掛けていた。だが、セレッソの的確なディフェンスで、有効なシュートチャンスを寸断されていた。

 そして60分、セレッソFW元日本代表のストライカーの玉田圭司選手にシュートを決められ、アビスパは先制点を献上。その後もアビスパは防戦一方を強いられ、セレッソの波状攻撃を、GK中村航輔選手を中心とした守備陣が防いだ。73分、FW坂田大輔選手を投入したあたりからアビスパの攻撃にもリズムが出てきて、セレッソのゴール前に攻め込むシーンが見られるようになった。対するセレッソも78分にDF扇原貴宏選手を投入し、守備的な布陣でマネジメント。アビスパも果敢に攻撃を仕掛けるも、刻々と時間が経過し、試合終了まであとわずかに迫っていた。それでもアビスパサポーターは、「最後まで選手へ声援を送り、一緒にゴールを入れましょう」と呼びかけ、大声援を送り続けた。
 ついに、その声援が届いた――。87分、DF中村北斗選手が値千金のゴールを決め、1-1の同点に。

 その後、セレッソは総攻撃を仕掛けるも、アビスパが得点を許すことなく、タイムアップ。試合は引き分けたものの、この瞬間、リーグ戦で上位となるアビスパのJ1昇格が決まり、スタジアムの約3万人の観衆のうち、約9,000人のアビスパサポーターが歓喜の雄叫びをあげた。嬉し涙を流すサポーターも多く、待ち望んだJ1昇格達成をかみしめていた。

 一方のセレッソ側は、ホームゲームでJ1昇格を逃し、選手・サポーターとも落胆。選手はフィールドに倒れ込み、しばらく立ち上がれないほどのショックを受けていた。勝利こそがJ1昇格の絶対条件であったセレッソ…。まさにこの瞬間、フィールド上は“天国”と“地獄”とが分かたれた様子で、この試合の壮絶さを物語っているかのような、象徴的なシーンであった。

 今回、試合の大半をセレッソは支配していた。アビスパの攻撃の要である、FWウェリントン選手と金森健志選手を完全にマークし、またMF城後寿選手のゲームコントロールの機能を封じるなど、セレッソの緻密なスカウティングと献身的な守備が光っていたのが印象的であった。最後まで得点を狙い続け、死力を尽くしたセレッソの戦いぶりは、正々堂々とした、まさにプロフェッショナルであった。
 一方のアビスパは、終始試合の主導権をセレッソに掌握されながらも、シーズンと変わらぬハードワークを継続し、心身を捧げ、攻守共に躍動していた。

 今季のアビスパは、試合ごとに進化し、強さをつくり続けてきた。9月に入ってからの14試合に至っては、9連勝を含め、負けがなかった。これは、偶然でもまぐれでもなく、必然である。試合に向けたハードトレーニングを年中継続し、多様な戦術・ゲームマネジメントを駆使しながら試合に挑んだ準備力。アビスパフロントの営業やPRを含めた後方支援。2万人を超えるアビスパグローバルアソシエイツと1,000社超のスポンサー。そして何よりも、アビスパの好不調かかわらず、心を込めた熱き声援を送り続けたサポーターが1つとなり団結した結果、勝ち得た今回のJ1昇格と言える。

 ただ、昨日の今日とはいえ、そうそうお祝いムードで浮かれてばかりもいられない。アビスパの、J2よりも過酷なJ1での戦いは、すでにこの瞬間から始まっているのだから――。

【河原 清明】

 

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