2024年04月19日( 金 )

中島淳一「古典に学ぶ・乱世を生き抜く智恵」(16)

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劇団エーテル主宰・画家 中島淳一氏

 己の創作領域のみを棲家とし、その域を超えた活動には慎重になりがちな芸術家が多いなか、福岡市在住の国際的アーティスト、中島淳一氏は異色の存在である。国際的な画家として高い評価を得るだけでなく、ひとり芝居に代表される演劇、執筆活動、教育機関での講演活動などでも幅広く活躍している。
 弊社発行の経営情報誌IBでは、芸術家でありながら経営者としての手腕を発揮する中島氏のエッセイを永年「マックス経営塾」のなかで掲載してきた。膨大な読書量と深い思索によって生み出される感性豊かな言葉の数々をここに紹介していく。

パウル・クレーの言葉に学ぶ~自分自身を支配する神になる~

中島 淳一 氏<

中島 淳一 氏

 画家パウル・クレー(1879~1940)はスイスのベルン郊外に生まれた。父は音楽教師、母も若い頃は歌手であった。彼もまた音楽の才能に恵まれており、10代の終わりには音楽家になるか画家になるか迷ったが、絵画を選びミュンヘンの美術学校に学ぶ。
 35歳の時、チュニジアに旅行をし、それまでのモノクロの線描中心の作品から、色彩に開眼。透明感溢れる水彩画を描き始める。
 42歳。バウハウスの教授となり、造形論を講義する。自らポリフォニー絵画と呼んだ色彩の繊細な組み合わせによる緻密な造形性とペシミズムを秘めた詩的なリリシズム、深遠な幻想性に富んだ作品を発表。晩年は無邪気な児童画を想起させるシンプルなフォルム(形象)や記号による作品に至る。
 天才とも言える近代絵画の先駆者、ゴッホやゴーギャンは世に理解されることもなくこの世を去ったが、クレーは絵画の価値観を転回させる独自の作品を創出し、生きているうちに理解され名声も得た。そして、今もなお世界中の人々を魅了して止まない。著書に「造形思考」「クレーの日記」がある。

芸術家は眼に見えるものを超えなければならない

 芸術家は眼に見えるものを超えるという超越作用を自己の内面で行ない、その作用を自己の内側に埋めなければならない。
 眼に見える世界は、芸術家にとっては見えるという性質のなかだけで汲み尽くされはしない。さらに、イメージに達するまで進化させなければならない。芸術家は現実を超えて、現実を溶解し、それによって内的リアリティを眼に見えるものにしようとする。
 芸術家は生来哲学者である。多くの哲学書を読みあさりはしなくても、自分で分析し、統合し深く考察することを好む。なぜなら、それが芸術的プロセスの第1段階だからである。
 しかし、絵は理性的な配列で産み出されはしない。芸術家は しばしば自分のなかの論理的な秩序と物理的な宇宙の秩序の関係を無視して直感的にオブジェを自由にデフォルメする。
 言うまでもなく、神によって創造された自然は理性的な配列を保っているばかりではなく、慈愛に満ちている。自然はいつも英知と美を示しているのだ。1滴の水、1枚の木の葉にも自然の美の本質を感じるものだ。
 しかしながら、芸術家は 人間と大自然の間に横たわる深淵な存在の谷をさ迷いながら、自分自身のなかで変容する新しい宇宙を創造しなければならないことを知っている。

最初の能動的な線は生命のない点を突破する

 芸術家には強烈な意志、迸る創作意欲が必要である。騒々しい世界の真ん中で、最も深い沈黙と孤独のなかに身を沈め、強靭な意志の力で絵筆をとり、自在に線を引き、華やかな色彩で作品を完成させる。そして、その表現のなかに真夜中の沙漠の静寂と祝福された人間存在の哀愁を見い出す。
 しかし、それは決して絶望ではない。現世という理念を超え、すべてを包む世界観に目覚め、まるで、釈迦かキリストのように芸術家の愛は無限の虚空に達する。そのとき、芸術家は初めて創造の秘訣を悟る。芸術家は自分自身を支配し、自分に絵を描く命令を与える神になるのだ。


<お問い合せ>
劇団エーテル
TEL:092-883-8249
FAX:092⁻882⁻3943
URL:http://junichi-n.jp/

<プロフィール>
nakasima中島 淳一(なかしま・じゅんいち)
 1952年、佐賀県唐津市出身。75~76年、米国ベイラー大学留学中に、英詩を書き、絵を描き始める。ホアン・ミロ国際コンクール、ル・サロン展などに入選。日仏現代美術展クリティック賞(82年)。ビブリオティック・デ・ザール賞(83年)。スペイン美術賞展優秀賞(83年)。パリ・マレ芸術文化褒賞(97年)。カンヌ国際栄誉グランプリ銀賞(2010年)。国際芸術大賞(イタリア・ベネチア)展国際金賞(10、11年)、国際特別賞(12年)など受賞多数。
 詩集「愁夢」、「ガラスの海」、英詩集「ALPHA and OMEGA」、小説「木曜日の静かな接吻」「卑弥呼」、エッセイ集「夢は本当の自分に出会う日の未来の記憶である」がある。
 86年より脚本・演出・主演の一人演劇を上演。企業をはじめ中・高校、大学での各種講演でも活躍している。福岡市在住。

 
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