2024年04月20日( 土 )

新たな飛躍「ソフトバンク2.0」の高みを目指す孫正義(2)

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office2 アローラ氏が2014年7月に、当時はバイスチェアマンという肩書でソフトバンクに参画するやいなや、インドネシア最大級のEコマースサイトのトコペディア(同年10月)、インド最大級のEコマースサイトのスナップディール(同)、東南アジア最大のタクシー配車サービスのクラブタクシー(同12月)などと矢継ぎ早に新興国の有望ベンチャーへの投資を即断即決。15年10月までに、合計9社に最大で総額約4,800億円の出資することを発表している。こうした投資先の選定や相手先企業の経営陣や既存株主との交渉を担っているのが、先述のニケシュ・チームの面々である。孫氏はこうした投資先企業の株式の価値(含み益)が投資後向上していることを引き合いに、「アローラを165億円で連れてきた価値はあった」と盛んに喧伝。ついにはアローラ氏の人脈でインドのナレンドラ・モディ首相の懐に飛び込み、急速な工業化に電力供給が追い付かず常に電力が不足気味のインドにおいて、15年6月、太陽光と風力の巨大発電事業「SBGクリーンテック」を立ち上げると表明した。

 民主党国会議員から社長室長に転じた嶋聡氏の先導役で、民主党政権の原口一博総務相や菅直人首相に孫氏がトップ交渉できたのと同じようなことが、アローラ氏を通じてインドでできている格好だ。中国に次いで経済が飛躍すると言われているインドで、アローラ氏の人脈や知見は大いに奏功するだろう。インドは依然コネ社会。素人が行っても相手にされない。地の利のあるアローラ氏は、だからこそ必要なのだ。わずか100億円の出資が10兆円近い含み益に化けた中国のアリババグループのような、次なる”金の卵”を見つけようという算段だろう。
 ニケシュ・チームは、これら新興国ベンチャー向け投資の目利きを担うだけでなく、ソフトバンクの日々のオペレーションにもくちばしをはさむようになってきた。「今までのソフトバンクの投資は孫さんの”趣味的投資”。もっと長期的な戦略によって投資しなければならない」とアローラ氏が言い始めると、孫氏がその言い回しを借りて自身のこれまでを「まるで趣味の盆栽を育てるように、趣味的な投資をしてきました」と受け売りする。あるいは、自身が在籍したグーグルが導入した持ち株会社制度や戦略的な投資会社の設立を見習おうと、アローラ氏が新生ソフトバンクを「ソフトバンク2.0」とたとえ始めると、孫氏も「ソフトバンク2.0」と言い出す。そしてグーグルの組織改編を見習って、戦略的投資を担う持ち株会社ソフトバンク・グループ(SBG)をスタートさせ、国内ソフトバンクは国内の通信事業のオペレーションを担うだけ、とされてしまった。アローラ氏が孫氏に影響を与え、孫氏がそれを受け入れる、やがてアローラ氏の連れてきた外国人幹部が方針を示し、日本人幹部たちに押し付ける―。こんなマネジメントに徐々に変わってきたのだ。

(つづく)
【尾山 大将】

 
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