2024年04月26日( 金 )

新たな飛躍「ソフトバンク2.0」の高みを目指す孫正義(4)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

softbank 表面的には順調に見えるソフトバンク2.0であるが、社内では上層部に対して依然として微妙な目線が送られている。海外への快進撃の源泉となったアリババの株価が冴えず、含み益はピークの11兆円から減少し、11月現在で8兆円程度に目減りしている。鳴り物入りで買収した米スプリントも、TモバイルUSの攻勢にさらされて全米3位から4位に後退、いまだに劣勢の回復が見込めない。国内では高市早苗総務相が「携帯電話料金が高すぎる」と言って、高止まりしている国内携帯通信3社に値下げを迫っている。こんな内憂外患のところに飛び込んできたのが、米ヤフーの経営問題だ。

 孫氏は1995年に米ヤフーの可能性を見出し、累計547億円を投資し、日本に合弁でヤフージャパンを設立したが、その後、米ヤフー株を段階的に売却し、最終的には3,500億円余りの投資収益を得て全株を手放している。米ヤフーの株を完全に手放すことにしたのが、後述するが、今になって弱点にもなっている。

 日本でこそヤフージャパンは存在感があるものの、米ヤフーはグーグルとの検索競争に敗れ、米国内では2005年以降は完全に劣勢になっている。創業者であるジェリー・ヤンCEOは08年にマイクロソフトからの買収提案を受けたが、マイクロソフト嫌いで知られるヤン氏は拒絶。結局、起死回生策が図られないまま、12年に退任し、今やヤフーを去った。

 再建を託された格好のマリッサ・メイヤー現CEOだが、一向にヤフー再生の絵は描けないまま、経営は迷走気味だ。とはいえ、約1兆円相当のヤフージャパン株と4兆円相当のアリババグループ株を保有する資産リッチ企業なだけに、この間、潤沢な資産が狙われて米サード・ポイントなどアクティビストファンドの格好の標的となってきた。株主であるファンドからの突き上げにあおられるように、12月に入って米ヤフー社内でもメイヤー氏への批判が公然と噴出。資産価値のあるヤフージャパン株やアリババ株を本体から切り離すことや、インターネット事業を切り離すなどの経営改善策が米紙に散発的に報じられている。米携帯通信トップのベライゾン・コミュニケーションズまでもが米ヤフー買収に意欲を見せていると報じられたが、これはおそらくスプリントを通じて米国市場を蚕食しようとするソフトバンクグループを牽制するつもりの策動だろう。

● ● ●

 孫氏にとって悩みの種は、米ヤフーが依然としてヤフージャパンの株式の35%余りを有する第2位の株主である点だ(ソフトバンクグループが43%)。米ヤフーがライバルの手に渡ると、虎の子である国内のヤフージャパンの経営にまで影響が出かねない。ヤフージャパンの内部では今年に入って、米ヤフーに直接出資するか、あるいは米ヤフーを買収することを検討したこともあった。日本のヤフージャパンは米ヤフーとの契約の縛りがあって日本国内以外では事業ができず、海外展開できない。ならばいっそのことヤフージャパンが買収することで、そうした軛から解放されようという心胆だ。

 その後の検討の進捗状況は不明だが、ヤフージャパンの会長職も兼務するアローラ氏にとって当面、最大の関心事がこの一件だろう。米ヤフーのメイヤー氏もグーグルの出身者だけに人的なつながりもあると思われる。ヤフージャパン関係者によると、日本人幹部たちが米ヤフー買収に乗り気なのに対して、アローラ氏は9月頃までは「米国ではヤフーのインターネット事業は劣勢で回復が見込めない。今頃あの会社を買収しても意味がない」と、あまり積極的な意義を見出してこなかった。本稿執筆時点では見通しはわからないが、ひょっとするとヤフージャパン防戦のために米ヤフー買収という、子会社が親会社を買収する下剋上のような出来事が起きるかもしれない。

(了)
【尾山 大将】

 
(3)

関連記事