2024年03月29日( 金 )

北朝鮮の「水爆」実験(後)

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プラス成長続く経済を背景に

sora 北朝鮮の今回の実験がはたして「水素爆弾」だったのか。
 この点については、米中韓日などの専門家が一様に指摘するように、北朝鮮の発表内容は額面通りに受け取るのは難しい。しかし、金書記にとっては、それは大した問題ではない。「水素爆弾」と言い張ればいいと思っているからだ。これまでも弾道ミサイル 実験を「人口衛星」発射と言い募り、既成事実を積み重ねて来た手法と同様な手口だからだ。
 実験翌日の7日の新聞各紙では、あまり触れられていかかった点について、ここでは言及しておきたい。
 それは北朝鮮の経済状況だ。この4年間、韓国側の推計によると、わずかながら経済成長が続いているという事柄だ。国際社会による「経済制裁」にもかかわらず、金正恩の北朝鮮はしぶとく生きながらえ、経済危機の状態にはないという事実を直視しておかねばならない。
 韓国銀行が発表した推計値を見ると明らかだ。それによると、北朝鮮経済は2011年に0.8%、12年1.3%、13年1.1%、14年1.0%成長したという。この数値を信用すれば、国連の経済制裁や日本・韓国の経済制裁が続いているなかでも、北朝鮮経済のプラス成長が続いていることになる。いや、「プラス成長」というよりも、停滞状況というべきか。しかし「経済危機」の局面にはない。そういう数値だ。
 韓国銀行の推計値によると、北朝鮮は1990年から9年連続でマイナス成長となったが、99年からはプラス成長に転じた。ただし、2006年、07年、09年、10年はマイナス成長。つまり韓国銀行は、金正恩第1書記が本格的に政権を担うようになってからは、わずかながらプラス成長と判断していることになるのだ。

カギは中国の出方

 北朝鮮の経済成長は、中国との貿易増加が産業生産の拡大につながった結果と見られる。したがって、今回の「水爆実験」によって、背信感を抱いた中国が北朝鮮への経済制裁に加わった場合、北朝鮮経済への影響は少なくないと予想される。しかし、それでも金正恩書記は「水爆実験」に踏み切った。なぜか。
 金正恩の基本路線は「核開発」と「経済開発」のダブルトラックだ。今回の「水爆実験」は、このうち前者の「核開発」に大きく傾斜した路線選択である。それの号砲を「爽快な爆音」と聞く感性の持ち主が、金正恩だ。中国との関係を悪化させても、自立経済をより強化するための信号弾ではないか、という見方が成り立つのだ。
 北朝鮮の動向のカギを握るのは、やはり中国である。そのことを改めて印象付けた「水爆実験」だったと言うしかない。

(了)
【下川 正晴】

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp

 
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