2024年03月29日( 金 )

ブラック批判に降参した「ワタミ」の渡邉美樹氏(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 居酒屋大手「和民」で働いていた森美菜さん(当時26歳)が過労自殺したのは会社側の責任だとして、遺族らが運営会社ワタミ(株)と創業者で当時の社長の渡邉美樹氏(自民党参議院議員)に損害賠償を求めた訴訟は2015年12月8日、東京地裁で原告側が 懲罰的要素を含む巨額な賠償金を支払うことで和解が成立した。ワタミ側が業務に起因する自殺であると認めて謝罪したうえで、1億3,365万円を支払う。「24時間、死ぬまで働け」と過重な業務を強いるなど最も重大な損害賠償責任を負っていると認定された渡邉議員は、経営責任をとって今後、ワタミの経営にタッチしない。居酒屋の勝ち組と言われた名物経営者がワタミから去る。ワタミの身売りが公然と囁かれている。

ブラック企業の代名詞に

izakaya 2008年6月。ワタミフードサービスが運営する居酒屋チェーン和民京急久里浜店(横須賀市)で働く女性社員が入社してわずか2カ月で、自宅マンションから飛び降り自殺した。「体が痛いです。体が辛いです。気持ちが沈みます。早く動けません。どうか助けて下さい。誰か助けて下さい」。亡くなる1カ月前の日記には、心身の限界に達した彼女の悲痛な叫びが記されていた。

 遺族の求めにより審査していた神奈川労災補償保険審査官は12年2月14日、「朝5時までの勤務が1週間続く長時間労働により、1カ月あたりの残業が140時間に達し、4月から6月の2カ月間の残業は227時間に及んでいた」とした。
 「休日には午前7時からの早朝研修会やリポート執筆が課され、休日や休憩時間が不十分で極度の睡眠不足の状態に陥り、不慣れな調理業務の担当となり、強い心理的負担を受けた」ことなどが主因として、「精神障害を発病」し女性が自殺に追い込まれたと、業務と自殺の因果関係を認め、労災認定をおろした。
 審査官が過労自殺と正式に認定したにもかかわらず、会長の渡邉氏は2月21日のツイッターで、謝罪の言葉もなく、「労災認定の件、大変残念です。労務管理ができていなかったとの認識はない」と開き直りと受け取れる発言をした。

 そのわずか5時間半後に、渡邉氏は学校法人郁文館夢学園理事長として姉妹校建設のためにバングラデシュを訪れた。22日のツイッターで、「バングラデシュで学校をつくります。そのことは、亡くなった彼女も期待してくれると信じています」と書き込んだ。これに対して、「過労で自殺したのに、期待する気になるわけがないだろう」と反発が起きた。渡邉氏の思慮を欠いた発言で、ネット上は炎上してしまったのである。

 この炎上騒ぎで、渡邉氏の過去の発言が、バッシングに晒された。自社ビルの高層階での会議で部下を叱る際、「ビル8階とか9階から今すぐ、ここから飛び降りろ!と平気で言う」との発言も、ネット上で議論が沸騰した。従業員に劣悪な労働を強いるブラック企業を“表彰”する目的で始まった「ブラック企業2012」(主催・ブラック企業大賞実行委員会)で、ワタミは「市民賞」に選ばれた。

(つづく)
【森村 和男】

 
(後)

関連記事