2024年04月23日( 火 )

表現の自由抹殺で、国民主権は停止する(前)

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ポイントオブノーリターン

clock 憲法改正が焦点に据えられる年明けとなった。2016年夏の参院選挙は、ポイントオブノーリターン(後戻りができない時点)に大きく近づくかもしれない。
 戦前は、「満州事変」がポイントオブノーリターンといわれる。
 これから起きようとしている戦争は、第二次世界大戦のような植民地再分割の衝動がテコとなった、国対国、ブロック対ブロックという戦争ではなく、いわゆる対テロ戦争、対テロ国家のような軍事介入である可能性が当面大きい。
 戦前は、そもそも国民主権ではなかったので、国家政策上の一線を越えた満州事変がポイントオブノーリターンとなった。現在の日本は、国民主権であり、言論の自由をはじめとする表現の自由があるので、何か事を起こしても、選挙結果や民意を通じて戻すことができる。ポイントオブノーリターンは、たとえば空爆に参加したとか地上部隊を送ったとかいう、何か「事を起こした時点」ではなく、言論の自由、表現の自由が停止されたときだ。言論の自由、表現の自由がなければ、形式的に投票権があっても、国民主権が機能しなくなるからだ。
 夏の参院選挙で、改憲勢力が憲法改正を発議できる議席を現憲法下で初めて握る可能性がある。

 安倍首相は年頭会見で憲法改正を訴えていくと意欲を示し、10日のNHKの日曜討論ではさらに踏み込んだ。「与党だけで3分の2というのは大変難しい。自公以外にも、おおさか維新の党もそうだが、改憲に前向きな党もある。自公だけではなく、改憲を考えている、前向きな、未来に向かって責任感の強い人たちと、3分の2を構成していきたい。頑張ります」と述べ、改憲勢力で憲法改正を発議できる3分の2の議席を確保する意向を明らかにした。

関心広がる緊急事態条項の危険性

 安倍自民党のめざす憲法改正の有力な条項が緊急事態条項にあることが急速にクローズアップされてきた。
 緊急事態条項は、基本的人権と表現の自由を停止する。NetIB-Newsは、2015年11月にその危険性を指摘した(「9条改憲より恐ろしい『緊急事態宣言』条項!」)。雑誌『世界』2016年1月号の特集企画での長谷部恭男早稲田大学教授(憲法学)の論文、独立系インターネット報道メディアIWJ主催の講演会、朝日新聞の「考論 長谷部×杉田」など、緊急事態条項に本腰を入れて取り上げるメディアも現れている。

 ここにきて、国民の人権にとって、憲法改正の危険は、緊急事態条項にとどまらないことに目を向けなければいけなくなってきた。それは、表現の自由を奪い、言論抹殺する水も漏らさない仕掛けと、基本的人権を制約する仕組みが自民党憲法改正草案に組み込まれていることだ。
 自民党憲法改正草案は、現日本国憲法第21条の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」の保障に対し、「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」と追加する。
 緊急事態条項だけでは、発動されなければ、表現の自由など基本的人権を制約できない。
 しかし、表現の自由禁止条項では、「公益および公の秩序」を害する目的の活動や結社の存在そのもののが「認められない」というのである。緊急事態宣言を発動することなく、政府や行政の判断で表現の自由を禁止し、結社を解散させることができる道を開く。

(つづく)
【山本 弘之】

 
(中)

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