2024年04月24日( 水 )

「地域包括ケアシステム」は本格的に稼働できるの?(前)

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大さんのシニアリポート第41回

市民フォーラムでワークショップに取り組む地域の人たち<

市民フォーラムでワークショップに取り組む地域の人たち

 2月、3日続けて「地域包括ケアシステム」に関する出前講座や市民フォーラム、シンポジウムに参加した。「重度な要介護者が最期まで自宅や地域で生活できる」という画期的なシステムであることはすでに紹介した。本市(埼玉県所沢市)でも昨年4月に改正された介護保険法により、ようやく重い腰を上げた。政府の本音は、これ以上、特養などの施設の増設回避と福祉予算の削減を狙ったものである。「施設から在宅へ」。言葉で言うのは容易だが、具体的に何をどうするのか、実態像を描くことができないでいる。タイムリミットまであと2年。はたして本格稼働は可能なのだろうか。

 出前講座では、「地域包括ケアシステム」の内容と、3種類(第1層~第3層まで)の「生活支援コーディネーター」(これを説明するのには困難を極める)について紹介。第1層の生活支援コーディネーターは、全市を掌握し、各地域に置かれる第2層の生活支援コーディネーターの人選と、第2層の選出者が実践する内容とその指導。
 第2層は、地域にある町内会、自治会、NPO法人、ボランティア団体、サークルなど(第一層が主に発掘する)を互いに有機的に結びつけ、地域の高齢者や重度な要介護者などを具体的に支援する。第3層は、医療機関、介護施設など、在宅医療や介護などを実践する専門機関。
 第3層を切り離しては「地域包括ケアシステム」は成り立たない。
 本市では、窓口となる福祉部高齢者支援課が、第1層を社会福祉協議会に委託。委託先の社協では、4人の専従者と14人の兼務者で昨年10月スタートさせた。しかし専従4人のうち、正職員は2人。残りの2人は、社会福祉関係の大学生である。多分、研修生なのだろう。できるの?不安が募る。

 2日目の「市民フォーラム」には、各地域の介護職員やケースワーカー、リハビリなどの専門家に混じって「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)などを運営するボランティアなどが参加した。200人ほどが会場を埋め尽くしたのだが、社協の職員以外、市の福祉関係部署の職員が4分の1を占めた。
 第1部が「さわやか福祉財団」(介護保険を起案した公益福祉法人)理事長清水肇子氏による基調報告。内容は前日の出前講座の踏襲だが、大きく違ったのは、「議論の過程に住民不在はあり得ない」という理事長のコンセプトがいたるところにちりばめられていた点。介護保険実施から15年間、「地域包括ケアシステム」の実施を放置してきた本市では、「仏作って魂入れず」(組織だけ作り、中身を精査しない)になりかねない。

広報誌『ぐるりのこと』(第7号) 広報誌『ぐるりのこと』(第7号)

 第2部では、地域ごとに分かれたメンバーによるワークショップ。「地域に欲しいこと、あなたができること」を紙片に書き入れ、それを大判紙にはりだす作業をした。しかし、待てよ、である。わたしは再三、市の窓口や社協の担当員に、「地域包括ケアシステムの実像が描ききれない。具体的に示して欲しい」と進言し続けてきた。そのため、「ぐるり」の常連客、幸福亭子(80歳、独居、市内に娘夫婦)さんという仮想の人物を立ち上げ、脳梗塞で入院、手術、リハビリ後帰宅。それ以降の幸福亭子さんの様子を、「地域包括ケアシステム」の中で、どのように扱われるのか、また、常連客や「ぐるり」という高齢者の居場所そのもの、亭主である運営者がどのように「地域包括ケアシステム」と関わりを持てるのかを、チャート(図式)で示すことを求めたのだが、だれも具体的に示してくれることはなかった。

 ワークショップでの、「地域にして欲しいこと、あなたができること」という設問は、社協の担当者の頭にはすでにある実像を描けていることの証拠だ。「何の目的でこのワークショップの作業を行うのか」を説明すべきだろう。その中に、第2層が手がける具体的な事例が含まれているはずだ。それとも、厚労省や「さわやか福祉財団」のマニュアルに従っただけなのか。実像を描けないまま進めるというのは疑問だ。

 さらに本市の場合には大きな問題を抱えている。フォーラム当日、第3層にあたる医療関係者の姿がほとんど見えなかったことだ。「地域包括ケアシステム」が、1層から3層までの3つの生活支援コーディネーターから成り立つという本来の姿から遠ざかる。どうやら、市の医師会、歯科医師会などと本市との関係がぎくしゃくしているらしいことを担当部署の職員から聞いた。もっとも「在宅医療」は実質的にスタートしており、20を越す医療機関が実践している。第3層として取り込まれることを必要としないことも一応理解できなくはない。ところが、本市での「在宅医療」の実態が肝心の市民の目にはまったく見えてこないのだ。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
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