ネットアイビーニュース

NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

今、歴史から元気をもらおう

【連載】 今、歴史から元気をもらおう (4) チェスト! 錦江湾を泳ぎきれ
今、歴史から元気をもらおう
2008年5月 1日 11:54

潮流・底流

  登坂恵理香さんが『チェスト!』という本を株式会社ポプラ社から出版しました。鹿児島の小学生たちが様々な思いと事情を背負いながら4キロの錦江湾横断遠泳に挑む爽やかな感動と勇気の青春物語です。脚本家の登坂さんは群馬県生れですが、初めてのこの小説に鹿児島への想いをこめています。この小説には二本の柱があります。薩摩の秘剣といわれる野太刀自顕流と薩摩伝統の郷中(ごじゅう)教育です。

 物語の主人公吉川隼人君は、ヤンチャだけど正義感が強い小学生です。ある日父親に連れられて「野太刀自顕流研友舎道場」にやってきます。薩摩のジゲン流には示現流と自顕流があります。示現流は薩摩藩の御留流(藩外不出)として伝えられています。一方、自顕流は野太刀という表題がつくように実戦の剣です。幕末期、人斬り半次郎と恐れられた中村半次郎(後の桐野利秋)も自顕流の使い手でした。実は隼人君のお父さんは、池波正太郎の小説『人斬り半次郎』の愛読者で、自顕流の実際の稽古を見たくて隼人君を連れてきたのでした。

 加治木島津家第13代の当主島津義秀氏は薩摩琵琶の弾奏家としても著名ですが、精矛(くわしほこ)神社の宮司をつとめるかたわら、「野太刀自顕流研友舎道場」で修行に励む青少年たちの指導に当たっています。研友舎の「舎」とは、鹿児島だけに伝わる青少年育成のための教育現場を指す言葉だそうですが、そこには、薩摩と呼ばれた時代から、地域ごとに組織された「郷中(ごじゅう)教育」という自治活動の教育精神が受け継がれています。

 鹿児島城下では、城下に居住する武士たちの屋敷地が「方限(ほうぎり)という区画に分かれていて、それぞれの方限には、武士の子弟たちが緊密な人間関係を結びながら文武に精励し、薩摩の士風を鍛錬しあうという教育組織、「郷中」がありました。郷中教育には教師がいません。長幼の序列に従って、長は幼を指導し幼は長に従うという自立と自律の集団です。その根本精神は「負けるな、うそをつくな、弱いものをいじめるな」の三点に尽きます。

 隼人君は、担任の女先生「なっち(白石奈津子)先生」に「負けるな」の意味を聞かれて『負けるなとは、自分に負けないこと。「勝て」と「負けるな」は全然違う。「勝て」では泣く人が出るかもしれないが「負けるな」は誰も泣かさないと思う。』と答えます。なっち先生は『吉川君はいつも最後までがんばるし、クラスの誰かがからかわれている時、いつも真っ先にその子をかばうの、先生ちゃんと見てるよ。吉川君のこと、先生、ほんとに素敵だと思う。』と言ってくれました。

 そんな隼人君にも一つだけ弱点がありました。それは自分が「カナヅチ」だということでした。そのため毎年開かれている錦江湾横断遠泳大会には病気だとうそをついて、いつも欠席して いたのです。でも小学生の最後となる今年ばかりは逃げ切れそうにもありません。隼人君はいよいよの決心をします。九日間のゴールデンウイークに泳ぎをマスターすれば、連休明けの月曜日、遠泳参加に堂々と手を挙げられると考えたのです。隼人君の脳裏には「ロッキーのテーマ」が高らかになり響くのでした。

 遠泳に参加する子供たちは、それぞれに様々な困難を抱えながら周囲の大人たちに支えられて錦江湾を泳ぎきります。子供たちは今泳いできた海にむかって横に長い長い列を作りました。
 『目の前に広がる穏やかな錦江湾。その向こうに噴煙をあげる桜島。母なる海と父なる山。             
  声を揃えて一斉に礼をする。/「ありがとーうござーいまーした!」
  ありがとう。/ ありがとう。/ 自分を取り巻くすべてのものに。/ ありがとう。』

 「チェスト!」というのは、自顕流の掛け声のように言われますが、鹿児島の人にとっては特別な意味を持っています。それは「なにくそ!」という言葉に相当する言葉で、「チェスト!」のあとは(なにがあっても)「行け」と続きます。隼人君の遠泳も「チェスト!」でした。島津義秀氏は「学んで欲しいのは気迫、歯を食いしばっても耐え抜く強い心、相手への思いやり、人の痛みを知る心です。全国どこでも地域で育てる場はあるはずだから、そこから火をおこしてそれを起爆剤としてさらに大きな火が着いていけば、日本はきっと変わる。」と言っておられます。

 「チェスト!」は映画化され先月から全国でロードショーが行われています。教育の一刻も早い再興が叫ばれている今、映画は鹿児島の伝統が現代社会に放つ鮮烈なメッセージです。  小宮徹


小宮徹氏
北九州市在住の公認会計士
(株)オリオン会計社 代表取締役
(株)オリオン会計社 http://www.orionnet.jp/


※記事へのご意見はこちら

今、歴史から元気をもらおう一覧
今、歴史から元気をもらおう
2010年12月 2日 10:58
今、歴史から元気をもらおう
2010年11月 6日 08:00
今、歴史から元気をもらおう
2010年7月31日 08:00
今、歴史から元気をもらおう
2010年6月25日 10:58
今、歴史から元気をもらおう
2010年6月 1日 10:51
今、歴史から元気をもらおう
2010年5月 6日 10:46
今、歴史から元気をもらおう
2010年4月 5日 14:28
今、歴史から元気をもらおう
2010年1月 6日 16:26
今、歴史から元気をもらおう
2009年12月 1日 13:41
今、歴史から元気をもらおう
2009年11月 2日 16:54
今、歴史から元気をもらおう
2009年10月 1日 16:41
今、歴史から元気をもらおう
2009年9月 3日 14:19
今、歴史から元気をもらおう
2009年7月29日 16:06
今、歴史から元気をもらおう
2009年7月 1日 14:49
今、歴史から元気をもらおう
2009年6月 1日 14:21
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル