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今、歴史から元気をもらおう

【連載】 今、歴史から元気をもらおう(31)北を目指す龍馬
今、歴史から元気をもらおう
2010年1月 6日 16:26

 龍馬はかなり前から蝦夷地に強い関心を持っていた。彼がいつごろから蝦夷に関心を持つようになったのかは不明だが、土佐と蝦夷は意外に近かった。安政4年(1857)、土佐藩の藩主・山内容堂は、蝦夷との交易の可能性を探るために家臣団を蝦夷に派遣している。土佐の特産品を売り込み、北の海産物を買い付けることにより交易の利を得ようとする意図だった。当時、北海の最大の海産物はニシンである。ニシンを日本海回りの西航路で大阪に持ち込むと巨利を得ることができた。魚油を採取したあと肥料とされるニシンの需要が大きかったからである。龍馬の本家は、才谷屋という土佐きっての商家である。容堂の蝦夷調査団派遣には才谷屋の関与があったに違いない。安政5年(1858)、江戸千葉道場から高知に帰家していた龍馬も、本家を通じてまだ見ぬ蝦夷地の出来事を耳にすることができたであろう。

 蝦夷地を目指す西廻り航路の折り返し点である下関は、中継交易港として繁栄していた。九州、四国の船も関門海峡を通るので、それらの船の寄港地である下関にはおのずから諸国の動静が集まった。下関の豪商・白石正一郎は勤皇商人である。正一郎は高杉晋作に私淑し奇兵隊に入隊したりしている。経済的にも多くの勤皇の志士たちを支援した。彼の家は勤皇志士たちの情報交換の場となっていた。長崎と大阪を行き来していた龍馬は、しばしば下関を訪れている。ここでも龍馬は、蝦夷地に関する最新の情報を入手することができた。

 志をたてた龍馬は、長州藩の支藩である長府藩に蝦夷開拓プランを提唱したが、文久3年(1863)の池田屋事件で提案は白紙にもどる。しかし龍馬は諦めず、翌元治元年(1864)、当時幕府軍艦奉行だった勝海舟に「勤皇の浪士二百余人を幕府軍艦の黒龍丸で蝦夷に送り込み、開墾しながら浪人海軍を育成したい」と相談している。かなり虫のいい話だが、当時松前は幕府の直轄になっていたので、幕閣の了承をとりつけることができさえすれば成功の可能性は高かった。しかし、ことは成らなかった。龍馬の真意は、攘夷派の志士たちを蝦夷に集めて事前に国内騒乱のタネを断ち、有為の人材を北の地に活かすことにあった。龍馬の構想は、のちに明治政府の屯田兵制度となって実現される。北の地に人材を求めた龍馬の想いはクラーク博士の札幌濃学校に実現し、新渡戸稲造、内村鑑三といった世界的人物を送り出した。龍馬が蒔こうとした一粒の種は、形を変えて花開いたのである。

 坂本家と北海道の縁は深い。龍馬の姉・千鶴は高松家に嫁して、太郎と直寛の二児をもうけた。太郎は早くから龍馬と行動を共にし、終生そばを離れなかった。維新後、小野淳輔として新政府に出仕、函館の権判事に任命される。坂本家の名が絶えることを憂いた新政府の推奨で坂本直と改名した。一時は北海道開拓にも従事したが、晩年は帰郷してキリスト教徒として終わる。一方、直寛はのちに龍馬の兄・権平の養子となり坂本家を継いだ。龍馬の志を継ぎ、土佐から開拓移民団を募って北海道に入植、原野の開拓に挑んだ。自由民権運動家にしてキリスト教伝道者としても知られている。龍馬の別名「才谷梅太郎」を受けて、「才谷梅次郎」をペンネームとした。

 直寛の孫・直行は十勝原野の開拓に従事し、画業でも名をなすが名利名聞を求めず、一介の農民として生涯を過ごした。今も北海道の人々は、彼に親しみをこめて「ちょっこうさん」と呼ぶ。直行もまた、土佐の“いごっそう”を貫いた反骨の開拓農民だった。2006年の生誕100年にあたり、高知の龍馬記念館に里帰りした「ちょっこうさん」は、先祖の地に「おかえりなさい」と迎えられた。このとき、北海道となった蝦夷と土佐だった高知に、龍馬の血につながる新しい絆が生れたのである。 

小宮 徹/公認会計士
(株)オリオン会計社 http://www.orionnet.jp/

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