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中国・超限戦にTPPで対抗? 政局を招く菅政権の迷走
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2010年11月 1日 16:12

 鳩山由起夫から菅直人へ顔は変わっても「ブレる民主党政権」の本質は変わらない。党綱領という芯を持たない不思議政党なればこそだが、権力構造も「小鳩」から「仙菅」へ二頭体制も同じ。尖閣で中国に揺さぶられると、普天間問題そっちのけで「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」で米国へ擦り寄りを図る。小沢爆弾を抱えてTPP前のめりは、政局近しを予感させる。

<中国の新戦略「超限戦」>

 「日中間に領土問題は存在しないにもかかわらず、意図的に問題を起こす。これは中国の超限戦戦略だと思うが、大臣はどう捉えているか」。
 「(中国が)21世紀の戦争はすべての境界と限度を超えた超限戦だ、と言っていることは承知している。しかし、尖閣の問題を含めて一定の意図や目的があったかどうか。防衛省として確たることを言える段階にはない」。
 「米海軍分析センター中国研究所の主任研究員が、中国は漁船を仕立てて故意に尖閣で問題を起こした、と発表している。これを超限戦とは受け止めないか」。
 「私の立場で現状をそこに結びつけて申し上げるのは適切でない」。
 10月26日、参院の外交・防衛委員会で上記のようなやりとりがあった。質問しているのは自民党の浜田和幸議員、答えているのは北澤俊美防衛大臣。浜田議員は先の参院選で鳥取選挙区から初出馬初当選した新人だが、国際政治学者としてのキャリアと実績があり、外交、防衛から経済、環境まで多角的視野から安全保障問題を語れる数少ない論客だ。約40分にわたる質問には、現在問われるべき日中間の問題が凝縮されていた。
 中国の「超限戦」とは、10年前に米国が打ち出した「非対称戦」に対比される新戦略。簡単に言えば、非対称戦は国家間の戦争とは異なり、アルカイダやタリバンなど国家以外の相手と戦ういわば「対テロ戦争」であるのに対し、超限戦は目的達成のためにはテロを含む「手段を選ばぬ何でもあり戦争」だ。ともに21世紀にのぞむ米中の新しい戦争概念として対をなすものだが、尖閣問題に絡めて浜田議員が超限戦を持ち出したのは、まさに時宜を得たもの。

<着々と打たれる布石>

 中国は、1990年代初頭の江沢民政権時代から21世紀の覇権国家を目指し、着々と布石を打ってきた。旧ソ連崩壊で米一極支配になれば、戦略目標は米国になる。その米国と対峙するための障害は、何といっても日本と台湾である。日本は「米国の属国」であり、台湾は中国の一部と国際社会に認めさせてはいるものの、米国の庇護を受けて独立状態を保っているからだ。両国を「中国の属国」化ないしは完全中立化し、東シナ海、南シナ海の制海権を得てこそ、晴れて太平洋を挟んで米国と対峙できる。したがって、当面の戦略目標は日本と台湾になる。
 そこで、「発展途上国」を装い続けて日本から巨額のODAを引き出しつつ、「安い賃金」と「将来の巨大市場」をキャッチフレーズに日本企業を呼び込む。殺し文句に使われるのは、お決まりの「日中友好」だ。その裏では愛国教育と同時に露骨な反日教育で国民を洗脳し、軍備を増強。96年には台湾初の総統直接選挙で、親日、親米の李登輝候補を威嚇するために、台湾海峡へミサイルを発射する傍若無人さを発揮するまでに至った。
 そして99年には、東シナ海における日中中間線の中国側で、中国が最初のガス田開発に着手したが、日本は何の対抗措置も取らない。産業界では、食材から日用品まで中国から流入する安い物品で、国内中小・零細企業の倒産が相次いだが、それでも中国傾斜が止まらなかったのは周知の通り。02年に江沢民から胡錦涛政権に変わっても、一党独裁、先軍政治の国であり、法はあっても自己都合でいかようにも変える人治国家であることへの認識がないからだ。「毒ギョーザ事件」、そして今回の「尖閣問題」で反日デモが起きても、中国進出企業はいわば人質であり、レアアースに象徴される中国産品依存症に陥った企業もなす術がない。そこまで日本は中国にどっぷりと浸かり、身動きできなくなっているのが現状だ。
 中国が送り込むのは、モノだけではない。ここ数年、外国人登録して日本に定住する中国人が急増した。08年にはかつて圧倒的多数派だった在日コーリアン(約40万人)を含む韓国・朝鮮系の60万人に並び、昨年は65万人で逆転した。東京、大阪の大都市はじめ、県都の大半で中国人が多数派になっている。それをまるで見透かしたかのように、中国が今年7月に施行したのが、先の委員会で浜田議員も取り上げた「国防動員法」だ。
 同法は「軍民一体」「全国民参加」「長期準備」を柱にした有事対応法で、中国に帰属する人やモノすべてが有事には徴用対象になることを定めたもの。軍や行政機関など政府直結は当然ながら、民間すなわち在中外国企業も含めてすべての施設や人が徴用される恐ろしい法律だ。
 「よく読めば、外国にいる中国人もその範疇に入る。つまり、日本在住の中国人は定住であれ、観光客であれ、有事と判断されたときは戦闘員になるということです」。
 と言うのは、中国の土地買収のターゲットになっている北海道で、森林買収問題を追っている小野寺秀道議会議員。同議員によれば、広大な土地買収だけでなく、別荘地や分譲住宅まで中国人の進出は細かいところまでおよんでいるという。となれば、それを所有する中国人はもとより、その施設も国防動員法で徴用されることになる。

<杜撰な尖閣問題対応>

 中国は、台湾と対峙する南シナ海で、南沙諸島、西沙諸島の領有権をめぐり、フィリピン、インドネシア、ベトナムなど周辺国とも争っているが、そのとき実力行使する手口の一つが、「漁船を先兵にする」こと。中国漁船に領海侵犯された相手国が取り締まりに出動すると、中国の漁業監視船や巡視艇が「自国民保護」名目で実力行使して影響力を拡大。最近は南シナ海もチベット、台湾同様に「我が国の核心的利益」と呼び、「我が海」視するまでになっている。尖閣問題は、同じ手口による東シナ海の制海権奪取の一環と見れば、わかりやすい。
 海上保安庁の巡視船に体当たりした中国漁船船長が、軍関係者であれ、民間人であれ、まず意図的と見るのが初歩。まして国防動員法施行後であれば、「徴用」要員の可能性大。一部メディアで「船長酔っ払い」説が出ていたが、これこそ超限戦。酔っぱらったふりをして相手を倒す「酔拳」は中国少林寺拳法の一つであり、「酔っ払い」なら事態がどう動いても言い逃れできる。さらに、それをメディアに流すことによる効果も計算した、実にしたたかな超限戦である。
 菅内閣の尖閣問題対応は、中国が「巨大な北朝鮮」であることへの認識がまるでないことを露呈した。国民の7~8割が不信を示しているのにあわてふためき、党内議論もないまま、10月1日の所心表明演説でTPP参加を表明。その後も前のめり発言が続いたため、問題点をメディアがいっせいに取り上げている。仙石由人官房長官の対中「柳腰外交」への批判が高まると、TPPで米国と経済界へ擦り寄る。農・漁・林業の問題は、前原誠司外相の言う「一次産業1.5%のために、98.5%の二次・三次産業を犠牲にはできない」という数字論理で表されるものではない。
 党内議論もないまま、国際的ウケ狙いで二酸化炭素の「25%削減」を打ち出した鳩山前政権同様、国家・国民の在り方を問う問題を、思いつきで提案されてはたまらない。明確な指針を示せない限り、政局は近い。

(了)

恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。


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