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原子力ムラたらいまわし人事の罪 田中俊一原子力規制委員長の罷免を
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2012年11月14日 16:55

 「フクシマ事故」を機に原子力全般にわたる新たな統治機関として発足した原子力規制委員会が、危惧された通り早くも大失態を演じている。原発の過酷事故における放射性物質の拡散予測をしたものの、発表内容に誤りがあったとして2度も3度も訂正。住民はもとより対策当事者の自治体も混乱している。規制委員会の田中俊一委員長は長年にわたって原子力ムラの要職を務めてきた典型的なムラ長の1人。一刻も早く交代させるべきだ。

 かねてより指摘されていた原子力・安全保安院や原子力安全委員会の機能不全は、3・11によって組織としての専門知識、技術の欠如や電力会社との癒着など、その実態が余すことなく露呈された。そこでこれら国の諸機関を統合する新組織として原子力規制委員会の設置法が国会で6月に可決され、委員会は9月にスタートした。しかし、委員会設立が決まるとともに初代委員長候補として真っ先にメディアに名前が出たのが田中俊一氏。それを目にして「何かの間違い」か「悪い冗談」と受け止めた人がいかに多かったは、すかさず毎週金曜夜の首相官邸前デモをはじめ、反・脱原発運動グループから「田中委員長反対」の声が上がったことでも明らか。

fukushima.jpg 田中氏は原子力学会会長や原子力委員会委員長代理、原子力研究開発機構特別顧問などを務めてきた原発ムラの有名人である。そして3・11後は、ホットスポットとして悲惨な実情が全国に伝えられた飯館村へ放射線アドバイザーとして乗り込み、専門家として自ら除染活動に取り組む姿がテレビや週刊誌で伝えられるなど目立ちたがり屋の一面を覗かせていた。しかし、その実績はといえば、委員長就任前まで飯館に隣接する伊達市のアドバイザーだったが、「飯館で除染に失敗して伊達へ逃げた」(除染活動している地元住民)と揶揄され、さらに「100マイクロシーベルトまでは安全」とも受け取られる発言で福島県では同氏の名前に顔をしかめる県民が少なくない。

 委員長の任命権者は内閣総理大臣だが、過去の悪弊を断ち切る新組織のトップに原子力ムラどっぷりの人物を据えるのは、「原発ゼロ」を掲げながら野田首相の本音が原発維持、容認にあると見られるのも当然だろう。しかも委員長は国会の同意が必要だが、原子力緊急事態宣言下という事情もあっていま現在も国会の同意は得られていない。すなわち委員長とはいっても先の「原発ゼロ」政策を立案した国家戦略室が正当性をもたない組織であるのと同様、田中委員長の正当性も疑われる。さらに規制委員会の事務局である原子力規制庁職員には、ノーリターンルールがあるとはいえ旧原子力安全・保安院スタッフが大挙移動している。となれば規制委の先行きが不安視されるのは当然だった。

 そして「やはり」というべきか、10月24日発表の先の放射性物質拡散予測は全国的な波紋を呼んだ。北海道の泊原発から九州の川内原発まで全国16原発での過酷事故を想定し、放出された「死の灰」がどのように拡散するかをシミュレーションしたものだが、考慮したのは風向きだけで地形を度外視した欠陥予測。その風向きにも誤りがあり、誤りは発表直後から11月6日の玄海、川内の再々訂正まで全国6原発に及び、そのたびに地元は右往左往させられている。しかも原発の立地自治体は来年3月までに地域防災計画を策定することになっているが、規制委は混乱の真っただ中の10月31日、防災計画の骨子となる原子力災害対策指針を決定、具体的な対策を求める重点区域を従来の半径10km圏から30km圏へ拡大。その結果、対象となる範囲はこれまでの15道府県、45市町村、72万人から21道府県、135市町村、480万人となり、混乱の輪も広がっている。

 規制委が誤りに気付いたのは電力会社からの指摘とされるが、九州電力のようにそもそも伝え方を間違ったり、規制庁がデータ入力を委託した原子力基盤機構が入力ミスするなどの原因はそれぞれでも、規制委が電力会社および原子力基盤機構や原子力研究開発機構発などのいわゆる原発ムラに「オンブにダッコ」にあるのは旧体制そのまま。電力会社は原発立地時と改変に当たっては冷却材喪失、炉心溶融などの重大事故を想定し、周辺への影響をシミュレーションしている。電力会社の想定数値や風向きの方位計算に誤りがあり、それをチェックする基盤機構や研究開発機構が気付かなければ、規制委もそのまま過ちを犯す構図である。そんな規制委員会に存在価値はあるのか。

 田中委員長は最初の予測発表に当たり、あくまでも「参考資料」としてその一人歩きには警鐘を鳴らしていたが、ならばなぜ発表を急いだのか。防災計画を立てる地元から防災計画の枠組みを求められていたとはいえ、規制委の存在意義をアピールしたかったのかと勘繰りたくもなる。規制委は国家行政組織法でいう三条委員会という強力な権限をもつ。それを統治する田中氏のトップとしての資質にはやはり首を傾げざるを得ない。原子力規制委員会設置法では、委員長が衆参両院の承認を得られなければ総理大臣は直ちに罷免することを求めている。
 原子力行政に実績は何もない野田首相が、最後に残す実績は委員長罷免しかない。

<プロフィール>
恩田 勝亘(おんだ・かつのぶ)
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経 済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書 館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するも の』(主婦の友社―共著)など。


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