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"危うい後継者"金正恩 延坪島は南北の尖閣になる?
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2010年11月24日 19:12

 北朝鮮による韓国・延坪島砲撃が世界を震撼させている。近年では9・11に次ぐ衝撃である。3月に韓国哨戒艦を撃沈して多数の死傷者を出しながら頬かぶり。かたわら金正日後継に、三男の金正恩を据えるべく着々手を打ち、秋に正式デビューさせたかと思えば、3回目の核実験をうかがわせたり、さらにウラン濃縮施設を誇示。父親の「先軍政治」継承を匂わせると、時を移さずしての今回の攻撃だ。北朝鮮は何を考えているのか、あるいは何が起きているのか。

後継者には神話が必要

 陸上数カ所で上がる黒煙、着弾時の赤い炎や白煙などテレビのニュース映像を見た視聴者は、真っ先に朝鮮戦争再発が頭に浮かんだはずだ。朝鮮半島情勢がこのところ緊迫していることを熟知する軍事専門家や北朝鮮ウォッチャーも、いまの時点での北による韓国領土内攻撃は予想外だったはず。その真意についてさまざまな見方があるが、砲撃が偶発的なものではなく確信をもってのそれだったことではほぼ一致している。狙いは米国との直接対話により、経済制裁を課している日米韓連携を解除させることにあるとする。
 だが果たしてそれだけか。 
 近年の北朝鮮の動向は常に後継問題とリンクしている。金正日総書記の健康不安が囁かれて久しいが、それにともなって後継問題が浮上。先妻との間に生まれた長男・金正男が真っ先に消え、近年は大阪出身の在日である後妻・高英姫との子供、金正日にとっての次男・金正哲が有力視されてきた。が、「正哲はひ弱」という評とともに2~3年前から浮上したのが、やはり高英姫との子供である三男・金正恩。そして今年に入ってからは、正恩の後継は確実視されるまでになった。
 北朝鮮の後継問題について、かって黒田勝弘産経新聞ソウル支局長は「後継者には神話が必要」と指摘してくれたが、まさしくデビュー前からデビュー後のいまも北では"正恩の神話"つくりに余念がない。まず性格、風貌からして兄の正哲と対称的に父親同様に豪放、剛胆で、体型も父親似とされていたが、最近はさらに祖父の金日成にも擬せられてきた。

いつでも戦争できる人物

 金正恩が国内で公式に登場したのは、9月28日の朝鮮労働党代表者大会。ここで中央委員に選出され、さらに新設の党中央軍事委員会副委員長(委員長は金正日)に就任。対外的には10月10日の労働党創建65周年の軍事パレードで、朝鮮中央テレビが全世界に発信した。演壇から金正日ともども閲兵する正恩の姿形は、整形説が出るほど「金日成再来」イメージにこだわっているのが明らか。
 正恩デビュー前の8月、金正日は支援と三男後継のおスミ付きを取りに訪中しているが、その折りに吉林省や黒竜江省にある金日成が拠点にしていた「革命の聖地」にも正恩を帯同。祖父との緊密性を強化することも忘れていない。
 「真偽はともかく正恩は金日成軍事大学卒業で、大学では砲撃を学んだとされている。そのとき砲撃部隊長として指導に当たったのが現在の総参謀長の李英鋪党中央軍事委員会副委員長。だからこれまた真偽不明ながら06年、北朝鮮が日本海にミサイル発射したときの現場責任者をつとめたのが正恩だったという。彼は金日成そっくりで『胆力がある』、と。すなわちいつでも戦争できる人物というわけです」(公安関係者)。
 総参謀長は事実上の軍トップであり、砲撃部隊出身とあれば今回の延坪島砲撃はまさしく北朝鮮軍のトップ指令ということになる。北は例によって「韓国が先に砲撃」と規定。それに反撃を加えて多大な戦果をあげたが、これまた金正恩の功績として讃えるはず。
 「ただ不思議なことにこのところ高英姫のことがまったく触れられない。死亡したとはいえ、正恩の実の母なのにまったく無視されている。それに代わって金正日の実妹、金慶喜が正恩の『育ての親』という話が北朝鮮国内で流布されている」(先の公安関係者)。

若い将軍たちがスピード出世

 高英姫は北朝鮮ではもっとも差別される立場の在日朝鮮人。しかし、その美貌と頭のよさを金正日が気に入り、後妻として2人の子をもうけたもの。その子が後継候補として浮上するとともに、「お母様」として宣揚されるまでになったが、2004年ごろに死亡している。一般的には乳がんによる死亡説が流されたが、当時取材したかぎりは後継問題が絡んで暗殺された可能性が高い。後継者は神話によって神格化されなければならないとなれば、正恩から実母の影を極力消そうとするのは当然だろう。それだけ北朝鮮では正当性が問われ、独裁者・金正日もそれは無視できないということだ。
 そこで問題になるのが正恩のキャリアである。正哲、正恩ともに欧州に留学経験があることは伝えられていたが、その後は党歴、軍歴とも不明。まさに神秘性に富み、神話つくりには都合がいいが、正哲30歳、正恩28歳は若過ぎる。まして後継者になった正恩が先の党代表者大会直前、金慶喜ともども人民軍大将になったのは北の並みいる将兵もあ然としたに違いない。そして代表者大会では、先の李総参謀長以下、50~60代の若い将軍たちがスピード出世して正恩を補佐する立場に就いた。
 これまで軍のトップ級は70~80歳の高齢者が占めていた。彼らに急激な若返りへの反発がないはずがない。それだけ金正日には自らの命と正恩の足場固めという焦りがあり、時間との競争を強いられているのは間違いないだろう。

近いうちに再び何か起きる?

 「イヤぁ、昨日から誰もかれも深刻な顔して話しかけるのもはばかれる。彼らおそらく夜はそれぞれの仲間うちで情報交換したはずで、今日は何か聞けるかと思ったけど前日同様、みんな沈痛さは変わらず」というのは、民団系、総連系双方に人脈があるA氏。同氏が得た感触では、韓国サイドも北朝鮮側基地を壊滅的に砲撃。このままでは終わらず、どちらが先に手を出すかは別に近いうちに再び何か起きそうだという。
 懸念されるのは、延坪島から住民が退避したまま民間人がいなくなること。そうなれば韓国側軍事基地と軍人はいても、領有権を主張する北朝鮮が常に攻撃対象にしてくる可能性がある。尖閣に対する中国のそれと同じ構図になり、「見習っている」といわれれば中国は何も言えない。共闘するか否かはともかく、東シナ海の制海権を握りたい中国にとり、日米韓連携を断ちたいのは北朝鮮と同じだ。

(了)

恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。

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