名経営者･稲尾産業創業者＝稲尾長亮氏82歳で逝く

＜木材から建設機械リースへの方向転換が当たる＞

　福岡には、大分県日田市出身の名経営者が多い。その名経営者のトップの一人が稲尾長亮氏であることは誰もが認めるところであろう。この稲尾長亮氏の社葬が１月23日、中央区にある「草苑」で行なわれた。列席者は400名を超える盛大なものであった。稲尾氏は昭和３年生まれであるから、82歳で亡くなられたのである。故人の出身地である日田市は、材木業で潤ってきた。木材業に従事していた同氏は、昭和32年に小郡木材市場を創業した。そして2年後の34年6月に、稲尾産業（株）（本社所在地･福岡市博多区西月隈5-4-46）に法人改組したのである。

　故人・稲尾氏が経営者として卓越していたのは、先見の明である。時代の流れを読んで木材市場を開いたのもさすがであった。しかし、会社の卓越した基盤を確立できたのは、昭和40年に建設機材リース＆レンタルへと方向転換したからだ。木材業に専念していたとしても、それなりの財産形成は可能であっただろう。だが、現在の木材業の惨状を目の当たりにすれば一目瞭然。会社存続は困難だったと思う。その場合、現二代目は事業停止の決断を下したはずだ。
　建設関連資材・機械業界が産業として大きく拡大したのは、昭和40年を境にしている。日本の社会が、生活環境インフラ整備の時代へと本格的に突入し出した時期なのだ。建設投資予算が急増したのである。その時代の波動を直感と数字で掴み、建設機械･資財のリースに参入したのだ。
　この方向転換は見事に的中した。昭和50年に入ると、稲尾産業は「建設機械のリースの雄」というブランドが固まった。笑い話ではあるが、昭和60年に入ると「稲尾産業って機械リースの会社でしょう。木材販売なんかはしていませんよね」とまで言われるようになった。

　故人・稲尾長亮氏は、身長160センチに満たない小柄な人である。だが、身近に接すると存在感がある。圧倒される。本人の意識しないところで、経営実績に裏付けられた迫力・エネルギーを発散しているのだ。稲尾氏は、偉ぶるところは微塵もなく、気さくな人であった。駄洒落を飛ばして周囲を和ませてくれる。面倒見も良い。周囲にたくさんの経営者が集まってくるような大将然とした風格を持っていたが、これは生来のものだったのだろう。

＜80歳の壁を破れず＞

　筆者は独立する前のサラリーマン時代から、故人･稲尾氏を数多く取材してきた。前記した通り、卓越した経営者であった。また６年前、福岡博多ライオンズクラブに入会した。この時、初めてこのクラブの重鎮であることを知った。ライオンズクラブでもいろいろとお世話になった。少なくとも６年前の本人が76歳の時、ゴルフをプレーされている姿が元気そのものであるのを目撃した。「この元気さでは、90歳まで現役を貫かれるな」と、舌を巻いた。
　ところがどうしたことだろう。屈強さを誇ってきた稲尾氏に、３年前から見る見るうちに衰えが顕著になってきた。好きなゴルフプレーも中断された。ライオンズ例会の出席も不可能になってしまった。ライオンズの仲間も「稲尾ライオンが、短期間にこれだけ衰弱するとは考えられない」と驚き合っていたのである。『寿命』と言ってしまえばそれまでであるが、筆者は先の75歳前後の時に「徹底的に体内情報を収集していれば良かったのではないか」という気持ちでいる。
　どうであれ、『野球の鉄人･稲尾』に匹敵した『経営者の鉄人・稲尾』氏が、81歳で永眠されることは残念で堪らない。どうも男性という生物には、『80歳という鉄壁』を容易にはクリアできない宿命が待ち構えているようだ。

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