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九州から興す!日本経済

アジアの活力を九州の成長へ(中)~特別座談会「アジアビジネスの可能性と課題」
九州から興す!日本経済
2011年5月17日 07:00

 ―それでは、長くアジアとのビジネスに関わってこられた皆さんが感じられている課題とは何でしょうか。

 芳野 大きな課題の1つとして、人材の問題があると思います。各企業において、グローバルビジネスを担う人材の確保・育成がなかなか難しいのです。
 一方で、立命館アジア太平洋大学(APU)や九州大学をはじめ、九州内の大学には約1万7,000人の留学生がいます。彼らに話を聞くと、日本の企業で働きたいという学生が多いのですが、大企業志向が強く、関東や関西の大企業に行くケースが多いため、九州の企業にはなかなか就職していないのが現状です。
 九州の中小企業のなかにも優良な企業はたくさんありますが、なかなか留学生には情報が届かず認知度が低いようです。実際に就職した留学生に聞いてみると、地場の中小企業に就職して良かったという意見もたくさんあるのですが。
 このため私どもでは、各大学や経済界などのご協力をいただきながら、留学生に九州の中小企業や日本のビジネスマナーなどについて学んでいただくとともに、企業へのインターンシップ派遣や中小企業経営者との交流会開催などをパッケージ化して提供する「グローバル産業人材活用プログラム」の実証を行なっているところです。今後、この実証結果を踏まえ、グローバル産業人材活用のためのコンソーシアムを立ち上げていく予定です。

九州・アジアビジネス連携協議会 理事 国吉 澄夫 氏 国吉 中小企業の問題は何も九州だけの問題ではありません。04年から05年にかけて中国の流通開放以降、中小企業が十分な「備え」をしないまま中国に進出し、トラブルに巻き込まれるケースが多いのが当時の状況でした。お互いにヨコで情報交流することがいかに大切かということです。
 この1年、JETROのプロジェクトで「中国事業環境研究会」をつくり、対中ビジネス環境について現状分析と今後の展開について議論してきました。私はその座長を務めましたが、中小企業にとって、アジア市場は大きなチャンスでもありますが、大きなリスクも抱えております。大企業なら失敗しても撤退して何とかやり直しが効きますが、中小企業は失敗したらおしまいです。先人の意見を聞くという「転ばぬ先の杖」となるのが、「中国事業環境研究会」の成果の報告書(JETROのHPで閲覧可能)だと思っています。
 日本の中小企業全般に言えるのは、技術は優れているところが多いにもかかわらず、実はビジネスの力が乏しい企業が多いということです。これは産業界が一体となって育成支援をしていかなければならない課題の1つです。

 中山 私はNEC時代の25年間、独立後もずっとアジアで仕事をしてきました。アジアはこの15年間で劇的な変化が起きています。中国、アジアの巨大な経済活力を生かしてビジネスチャンスをつかむのが、日本企業の課題です。
 これまでは中国で物を安くつくるという考え方でしたが、今の中国はそういう市場ではなくなりつつあります。食品、環境、観光、水、サービスなど新しいビジネスチャンスがどんどん生まれています。中国、アセアンそしてインドとFTAが締結されるにつれて、アジアの市場がますます大きく成長しています。中国はもとより、アセアン、インド、この両方をにらんだビジネス展開を考える必要がありますね。
 私は、実はこれからフィリピンが重要な国となるような気がしています。流暢な英語を話す人材も多いですし、九州の企業が国際化を進めるにあたっては、フィリピン人の人材活用が有効ではないかと考えます。実際に中国の企業などは、もうすでにフィリピン人を多数採用しています。今まで九州では、フィリピンは国際化戦略の対象になっていませんでしたが、私は積極的に取り組むべきだと考えます。
 また、ベトナムやタイも大きなポテンシャルを持っていると思います。両国は日本にとって重要な国ですし、ODAの資金による大きなプロジェクトも予定されております。それにうまく乗って、新しい環境ビジネスなどに取り組んでいく方法も考えられます。2030年代にはインドが中国を追い抜くという話もありますし、タイやベトナムにまずは拠点をつくってから、次にインドを目指すという方法もあると思います。
 インドネシアについては、私も昔、5年間駐在していましたが、3億人近い人口を持つ巨大な国です。所得水準の向上で、とてつもなく大きなビジネスチャンスを秘めています。ですので、わたしはこのような国々と九州の企業をぜひ結び付けたいと思っています。
 「実践アジア塾」から、中国で農産物の製造や卸を手がけたいという若手の経営者も出てきました。また、司法修習生のグループがアジアに通用する法律事務所をつくりたいという話もあります。これらは大変面白い動きですし、私は九州の若い人たちに期待しています。柔軟性のある若い感性が意外といけるのではないかと思っていますし、そういう人たちを支援して、新しいビジネスを構築していきたいですね。
 若い経営者に比べると、九州の中小企業の中高年社長は、留学生を含めた海外の人材を使いこなせるだけの知識やノウハウを、社長自身が身につける必要があるでしょう。しかしながら、中小企業経営者の多くは、貴重な情報提供やネットワークの紹介は無料だと思っている人もおり、有料ではなかなか受け入れません。そのあたりは行政がカバーする必要があります。また、これまで以上に、彼らの目線に立った実践的サービスが必要かもしれません。

 芳野 中小企業経営者の方々からは「アジア向けビジネスをやりたくてもノウハウや情報がないので躊躇してしまう」といったお話をお聞きします。また、「信頼できるパートナーが見つからない」、「進出先の市場・法制度などの情報が不足している」、「マーケティングのやり方がわからない」というお話もよく聞きます。
九州経済産業局国際部 国際化調整企画官 芳野 勇一郎 氏 このため私どもでは、中小企業者さんの海外展開支援を一層強化するため、JETROや中小企業基盤整備機構といった関係各機関との連携により「九州地域中小企業海外展開支援会議」を立ち上げ、海外展開の入口から出口まで一貫して支援する体制をつくっております。
 これからはいろいろな組織が連携して、オール九州で各企業のアジアビジネス展開を支援すべきと考えています。具体的には、海外展開に成功されている企業のベストプラクティス集をつくり、これから海外展開を検討されている人たちの参考にしていただけるようにしたいと思います。
 また、海外市場に向けた商品・ブランド開発の支援や海外バイヤーを招へいしての商談会開催、海外展示会への出展支援、海外ビジネスの専門家とのマッチングの機会の提供などに取り組んでいきたいと思います。
 なお、環境分野に関しては、九州地域環境・リサイクル産業交流プラザ(K-RIP)などの関係機関と連携して、中国遼寧省(大連市・瀋陽市)および山東省(青島市)との間での環境産業交流に取り組んでおります。今年1月にも大連市内において、大連市政府関係者にもご出席いただいたうえで「環境産業交流会議」を開催しました。その場で具体的なビジネス展開に向け、日本側と中国側の企業間で4案件の調印が行なわれたところです。

(つづく)

【文・構成:杉本 尚大】

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中山 良一(なかやま りょういち)

中山 良一氏一般社団法人九州・アジアビジネス連携協議会代表理事、アジアソリューション(株)代表取締役
1972年長崎大学経済学部卒業、同年NEC(日本電気)入社、ジャカルタ、シンガポール、北京事務所長などを経て、アジア第二部担当部長を歴任。中国、インド、東南アジア地域の通信・情報分野などのビジネスに従事。95年NEC退職後、99年(株)アジアソリューション設立、代表取締役に就任。同時にNPO法人・広域活性化研究センター理事長、(財)国際情報化協力センター・コンサルタント、独立行政法人中小企業基盤整備機構国際化支援アドバイザー、(社)九州オリーブ普及協会理事、中国東北財経大学客員教授など幅広く活動。


国吉 澄夫(くによし すみお)
国吉 澄夫 氏一般社団法人九州・アジアビジネス連携協議会理事・事務局長
京都大学法学部卒業。1971年、㈱東芝入社。ロンドン事務所駐在などを経て、79年から中国業務に従事。プラント・技術移転・合弁会社立ち上げなど実務を経験。その後、その他アジア各国への半導体営業/半導体海外現法支援などを経て、93年江蘇省無錫市IC合弁プロジェクトに従事、現地法人設立後、副総経理として赴任。96年帰任、本社中国部長/室長として全社中国事業統括・地域戦略立案を担当。05年10月より、九州大学アジア総合政策センター教授。専門は中国ビジネス(投資戦略)、中国産業論(電子産業)。10年6月末、九州大学アジア総合政策センター閉鎖と共に退任、7月1日より現職。

芳野 勇一郎(よしの ゆういちろう)

芳野 勇一郎 氏九州経済産業局国際部 国際化調整企画官
1979年西南学院大学経済学部卒業、福岡通商産業局(現九州経済産業局)入局。地域経済動向分析や活性化プロジェクトの企画・立案、新エネルギー導入促進などの業務に従事。01年7月、国際部国際企画調査課長として第1回目の「九州アジア国際化レポート」策定を担当。02年4月産業部中小企業経営革新・金融担当参事官、04年7月地域経済部技術企画課長、05年6月経済産業省地域経済産業G地方調整室長補佐、07年4月産業部産業課長などを歴任し、中小企業の経営革新・技術開発支援や地域資源活用・農商工連携の促進などに携わる。09年7月より現職。


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