誰もが彼女の言い分を疑っただろう。モバゲーでおなじみのディー・エヌ・エーの南場智子社長(49)が5月25日に公表した、「夫の看病のため社長を退任する」という美談を、である。その約2週間後の6月9日に、公正取引委員会が「ディー・エヌ・エーが独占禁止法に違反した」として、排除勧告をしたからである。
<「美談」の退任理由>
ディー・エヌ・エー(DeNA)は、携帯電話上のSNSゲームサイト「モバゲータウン(現在はMobage)」を運営する東証一部上場の新興企業だ。「無料」とふれ込んで子どもや若い人を誘い込み、熱中するとアバターや架空通貨モバコインの購入を働きかけて課金する。
DeNAは1999年の創業後しばらくは経営難にあったが、03年のパケット定額制を追い風に成長気流の乗り、折しもパソコンから携帯電話やスマートフォンにネットユーザーが移行したことも手伝い、急成長を遂げた。今や会員数は2,700万人を突破。11年3月期決算は、1,127億円の売上高に対して経常損益は562億円の黒字で、売上高経常利益率が49.8%という脅威の好業績企業である。借入金はゼロで、純資産は1,272億円もあるピカピカの企業で、手元の現預金は626億円もあるキャッシュリッチ企業である。
こんな絶好調を絵に描いたような企業なのに、創業社長で14.67%の株式を保有する南場智子社長が突然退任するというから、周囲はビックリした。しかも、今どき珍しい「病床に伏す夫の看病」が理由というから、なおさらである。
彼女がDeNAを創業する前に勤めていた大手コンサルタント会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーの同僚だった夫が、5月の連休明けに体調を壊し、手術や術後の安静・介護が必要なため「夫の看病をするために社業に集中することができない」と、退任を発表した。後任には、東京大学大学院で航空宇宙工学を学び、日本オラクルを経て創業間もない同社に入社した守安功取締役(37)を起用し、6月25日開催の株主総会後の取締役会で交代するという。
このときは、誰もが「美談」を疑わなかった。
<公取委からの排除勧告>
南場氏の実家は新潟市の石油卸商で、身長180cmを超える長躯の父は、戦前の家父長のようにきわめて厳格だった。機嫌を損ねれば、お膳をひっくり返すようなことは平気でやる父である。彼女が東京の大学に行きたいというのにも猛反対している。そんな時代錯誤とも言える厳格な家父長支配の家に生まれ育った女性だけに、意外に夫に甲斐甲斐しくかしづくのか―そんな見方も、IT関係者の間では広がっていた。
そんな最中の6月9日、公取委はDeNAに排除勧告をした。昨年暮れに立ち入り検査をしていたので、いずれは排除勧告されるだろうという読みは、業界内やマスコミ各社にはあった。彼女自身も退任の記者会見で、「排除勧告の見通しがあって辞めるのではないか」と記者に聞かれて、「そんなことはありません」とやや気色ばんで答えている。排除勧告されるというのは、あらかじめ想定される事態だった。
とはいえ、退任発表と今回の排除勧告発表は、時期的にあまりにも近い。そこで「排除勧告後に夫の看病で退任すると、引責辞任と受け取られるのを恐れた、という見方があります」(ライバルIT企業の広報担当者)と言われている。
そのあたりの真偽は定かではないが、問題は排除勧告に至った行状である。
公取委審査局によると、昨年夏の段階でDeNAのモバゲー内には数百のゲームが提供されていたが、そのうちとくに人気だったゲームを供給していた約40社に対して、DeNAが「ライバルのグリーにゲームを提供しないでほしい」という独禁法違反行為(競争者に対する取引妨害)をしたというのだ。もし、DeNA側の要望を聞き入れないでグリーにも供給するようであれば、モバゲータウンのサイト内で「イチオシゲーム」「新着ゲーム」などの表示をしないという嫌がらせまでしたのである。
【尾山 大将】
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COMPANY INFORMATION
(株)ディー・エヌ・エー
代 表:南場 智子
所在地:東京都渋谷区代々木4-30-3
設 立:1999年3月
資本金:103億9,200万円
売上高:(11/3連結)1,127億2,800万円
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