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チャイナビジネス最前線

賢人たちが語る「中国の今」(5)~北京中倫弁護士事務所パートナー・呉鵬弁護士(後)
チャイナビジネス最前線
2011年8月22日 12:05

 今回は8月4日に福岡アジア都市研究所の主催により、アクロス福岡国際会議場で開催された「中国経済講演会」。「日中ビジネスをめぐる法的問題の新しい動き」と題して、北京中倫弁護士事務所パートナー弁護士 呉 鵬 氏が、流暢な日本語で約100名の参加者に語った。

<中国企業の対日投資対応策>

呉鵬弁護士(右)とコメンテーターのアジアビジネス連携協議会事務局長 国吉澄夫氏(左) 最近、一部の中国企業では、本来事業の経営が順調になり、加えて資金力の向上にともない、さらなる発展のため、日本の優れた製品・技術・管理方法などを取得し、または日本市場に進出したいとするニーズが生じてきた。その実現方法として日本企業への直接投資、という選択肢が生まれている。
 日本のシャープの例を挙げれば、自社の亀山工場で使われていない第6世代の技術については、資産の有効活用の見地から、すでに中国の企業へ売却されており、日本では現在、第10世代の技術に取り組んでいるのだ。

 一方、リーマンショック以後の金融危機の影響で、一部の日本企業は財務上の問題に直面し、外部投資家の支援に期待している。さらに、日本市場が縮小するなか、中国市場への進出で販売ルートを拡大したいとするニーズも現れてきた。そこで、日本企業が中国での販売ルートを有する中国企業の資本参加を受ける、あるいは中国企業の日本代理店となるなどのビジネスチャンスが現れてきている。また、上場企業が業績改善を図る観点から、株式交換等の方法により業績のよい中国企業を連結子会社とするスキームも活用されているようだ。

 こうした日中企業間連携を成功に導くためには、日中の文化、商習慣の違いを重視する必要がある。とくに、中国企業の交渉慣行では、最終的な契約に至るまえであれば一度合意した内容であっても、いつでも主張を変えることができるという認識があることに注意が必要だ。中国企業の対日投資においても、日本企業の対中投資と同様に一定規模以上のプロジェクトは中国政府の許認可が必要となる。中国の法制度は整備されつつあるが、不明確なルールも依然として存在し、行政機関の裁量範囲も広いので、遠回りを避けるためにも経験豊富な弁護士に相談して対応していく方がいい。

<中国における日系企業の労働問題の動向>

 中国総工会(組合)の発表によれば、2010年に約40万件の労働争議事件が発生した。この労働争議事件の多くは労働報酬に関するものであり、企業側の敗訴率が高いのも特徴だ。この労働争議多発の一つの要因としては、中国の労働法令整備とともに労働者の権利意識が高くなったことによるものであろう。08年1月には労働者の権益保護を目的とした労働契約法が施行された。さらに、08年5月に施行された労働争議調停仲裁法では争議の立証責任を企業側に求めており、11年1月に施行された改正労災保険条例では労災保険の適用範囲を拡大、企業側の責任も重くなっている。

セミナーのようす もう一つの要因としては、賃金の上昇がインフレに追いつかず、低所得労働者の生活レベルが低下している傾向にあることだ。外需依存型経済成長策から内需拡大策に切り替えた中国政府にとって、国民の収入増が政府の要務のひとつとなっており、賃上げのストライキについても容認の姿勢があったと見られている。

 今後も、中国の経済発展にともない、労働者の賃金はさらに上昇する傾向にある。また、労働者の権益保護のために労働関係法規は引き続き企業側にとっては厳しく整備されていくであろう。そのため、企業の労働関連法令順守の徹底と社内外のコミュニケーションの強化がますます重要となってくる。中国における日系企業がまず取り組まなければならないことは、現地幹部を育成登用し、現在遅れている「経営の現地化」に向けた活動をしていかなければならないことである。


(了)

【杉本 尚丈】


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