「地域」という機能の在り方が問われている大震災後の日本における、都市の魅力の引き出し方とは―。長崎県美術館の前館長であり、現在は富山大学で教鞭を執っているほか、富山市の政策参与も務めており、現在、福岡市の「アイランドシティ・未来フォーラム」にも委員として参加している伊東順二氏。福岡市の都市づくりのこれからや、大震災後の日本の復興策などについて、同氏に話を聞いた。
―「アイランドシティ」について、率直な感想を聞かせてください。
伊東 まず、すでに8,000人も住人が住んでいらっしゃるのであれば、その方々のことを第一に考えなければならず、あまり無茶な開発はできません。現在、住民の方々はスーパーマーケット1つすらないなかで暮らしており、しかも初期に買われた人にとっては3割も地価が落ちています。交通システムがいまだ整備されていないなか、地価が下がるのは当たり前です。
また、突然ここに「こども病院」だけを移してきても、そこを取り巻く環境整備をきちんとしていかない限りは、こども病院を中心とした「子ども医療の最先端拠点」のようなものにはなりません。たとえば、神戸の六甲アイランドは、医療機関の本社機能を移転させるというようなサービスを行なったわけです。そうすることによって、GEやCTスキャンなどの先端医療系というものが集中します。そのくらいのものが動くような―たとえば製薬会社やケアなどのタウンにしなければ、あまりここにつくる意味がないように思います。こども病院だけが単独であっても、交通の便が悪ければ、ただ不便さしか感じないでしょう。
私は、アイランドシティには、「イベント型」や「フェスティバル型」が一番向いていると思います。そうして、集客のインキュベーションをつくっていくことが必要です。フェスティバル型のシティにして、コンベンションやアミューズメントを含めたものを入れる。そうすれば、人口の移動で交通機関も潤います。もう1つは、島ですからセキュリティ面での管理がしやすいというメリットもあります。
島という特性を活かしてやろうとするならば、週末には必ず人が来るような質の高い内容のものを、住民との整合性を合わせたうえで行なう。島全体が整備されて住民が納得するような「フェスティバル型シティ」を展開すれば、住民のメリットにもなりますので、やり方としては良いと思います。何か人が集まる部分を考えないと、何もならないですね。
―さまざまな角度から見てみると、やはりアイランドシティの都市開発は難がありそうですね。
伊東 せめて、交通システムだけでも良くなればいいのですが...。ただし、単に普通のバス路線を整備しても意味がありません。アジアの先端的な部分を福岡市につくるという意味では、あくまでアイランドシティを"実験棟"としてさまざまな実験―たとえば、エコをテーマにするならエコ実験をしていく。「エコ都市」というのはこれから産業を生み出す大きな基盤ですから、そのなかではすべて未来の産業、未来のくらしについての提案型にしていく。バスにしても「BRT(Bus Rapid Transit)」でレール軌道を走るバスなど、新たな試みに挑戦していく方がいいでしょう。
そのほか、余剰電力を蓄電池に貯めていく取り組みなども面白いです。蓄電池の技術というのは、まだ全国的に使えるほど一般的ではありませんが、上海万博でも使っていましたし、部分的に使うくらいであれば信頼できるシステムです。その蓄電池を、埋め立てている土地の地下に敷いて配線をし、供給システムをつくっていく。現在、全国的に人工島のようなものは、なかなかつくることができません。ですから、そのようなこと―地面をつくる前に地面の下に何か埋め込むというようなことができるのは、アイランドシティだけなのです。埋めた後の耐用年数の問題も、今の技術の蓄電池であれば耐用年数2万5,000年と言われていますし、それにあくまでも実験でいいのです。サブ電源を確保しておけば問題ないですし、こういう取り組みをしているということが大事なのです。
エコロジー・エネルギーの実験を福岡で行ない、福岡はその先端都市として認定される。そのようなことが、これからの福岡の産業に大きく貢献していくと思います。
―福岡市の港については、どう見られていますか。
伊東 国が日本海側の拠点港を整備するというので、6カ所くらい視察しに行きました。福岡市もそれに手をあげていますが、今、国内23港くらいの候補があります。福岡市に関しては、「対アジア」というだけの説得力では、日本海側の拠点港になっても競争力があるかどうかわからないということです。
つまり、極端に言えば、ほかの候補地も日本海側―アジア側に面していますから、福岡市との条件はさほど変わりません。福岡市が考えていかなければならないのは、むしろアジアと接触を持った後、日本海側の物流のなかにおいてどのような動きをするのかということです。
福岡市は「対アジア」ということに対して、「自分たちにはアドバンテージがある」という1つの妄想があることがいけないのではないでしょうか。ですから、福岡市が国内の需要に対して、どのような方法で物流を手当てしていくかというのをアドバンテージとして組み込まなければ、ただ近いというだけでは、福岡市の利益にしかなりません。もっと、日本国内での大きなビジネスを考えてほしいですね。
―日本海側の拠点港として国の整備を受けられるためには、どういったことが必要でしょうか。
伊東 基本的には、日本海側の横のつながりを制する候補地が、国の整備を受けられることになるでしょう。たとえば、日本海沿岸にリニア状の特区などをつくり、そのなかで運送のコストを削減していけば、どこに着いても物流がうまくいくのではないかなと思います。
あと、福岡市はクルーズに力を入れているともおっしゃっていました。しかし、中央ふ頭をクルーズ船の拠点にしたとしても、今の中央埠頭に着いても嬉しいと思う人はいないのではないでしょうか。もっと、風景などを含めた機能的な何かがないと、現状は厳しいでしょう。
中央ふ頭の倉庫などを、アイランドシティに移そうという話も少し聞きました。しかし、そのようなことをすると、風景とかエコとか言っている場合ではなくなると思います。ですから、そのあたりの港湾行政や交通行政などを市長がすべて把握し、いかに横断型のプロジェクトを完成させるか―ということが大事ではないでしょうか。
要するに、市長がある意味で「プロデューサー」になればいいと思います。そうしていわゆるアイランドシティに必要な要素の専門家を集めてそれぞれの分野は彼らに任せ、それをトータルでどう編集するかということを市長と市役所で行なう―というような流れがいいのではないでしょうか。
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<プロフィール>
伊東 順二 (いとう・じゅんじ)
富山大学芸術文化学部教授
美術評論家/プロジェクト・プランナー/プロデューサー
1953年、長崎県生まれ。早稲田大学仏文科大学院修士課程修了。仏政府給費留学生としてパリ大学、およびエコールド・ルーブルにて学ぶ。83年の日本帰国まで、フランス政府給費研究員として、フィレンツェ市庁美術展部門嘱託委員(80)、「フランス現代芸術祭」副コミッショナー(82)などを歴任。帰国後、美術評論家、アート・プロデューサー、プロジェクト・プランナーとして活動を開始。㈱JEXT代表取締役を経て、04年に長崎県美術館館長となる。05年、富山大学芸術文化学部文化芸術学科教授に就任。07年、富山市政策参与および長崎県文化芸術アドバイザー。10年、東京芸術大学大学院非常勤講師。展覧会の企画監修、アート・フェスティバルのプロデュース、アート・コンペティションの企画実施、都市計画、また、企業、協議会、政府機関などでの文化事業コンサルタントとしても幅広く活躍中。
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