孫氏が着目したのは、世界で最も風力発電の最適地と言われるモンゴルのゴビ砂漠だった。モンゴルの自然エネルギー潜在力は、米研究機関の試算によれば、風力発電が日本の年間消費量の8倍の8,100テラワットアワー、太陽光が同4,800テラキットアワーもあるという。それが本当かどうかはわからない。だから孫氏は3月12、13日、モンゴルのバトボルト首相と会談し、とりあえず現地で実験をすることに合意した。モンゴル最大の携帯電話会社ニューコムと合弁で新会社を立ち上げ、ゴビ砂漠に31基の風力発電施設を設置し、11月から発電を開始する。
次いで孫氏は韓国電力公社との間で、日本と北部九州の間に海底送電線を設置する相談をはじめている。モンゴルで発電した電気を中国、韓国を経て日本に運ぶという構想だ(実際はモンゴルで発電したのをそのまま日本に送り込むのではなく、モンゴルで発電したものは周辺地域で消費し、空いた電力を玉突きのようにして日本にもたらす「スワップ」という方法を採る)。
こうした奇想天外の構想に対して、エネ庁の担当官は「いったいいくらかかると思っているのですか?公的な資金でソフトバンクのために海底送電網なんかひけっこない」と冷笑する。設備投資価格が割高になり、実現性が乏しい。「それよりも原子力を再稼働させたほうが電力全体のコストは下がります」と、原発再稼働の必要性を力説する。
これに対してソフトバンク側は、ノルウエー~オランダ、イギリス~オランダ、フィンランド~エストニアなどにすでに海底送電網が整備されているという実例をあげて反論する。そのうち世界最長というノルウエー~オランダ間の580キロの海底ケーブルは投資額は650億円だったという。ソフトバンクは基地局整備で3年間に1兆3,000億円を投資する力があり、単独での投資でも十分にまかなえる規模感だ。日韓間は240キロ程度なので、距離から考えてもノルウエー~オランダ間の半額程度で済みそうという。
問題はたとえこうした海底ケーブルが実現したとしても、日本の電力会社が受け入れるかどうかだ。発電から送配電まで一貫して垂直統合した日本の電力会社が、外国産の電力を受け入れるマインドを持つとはとうてい思えない。というわけで、にわかに発送電分離と電力自由化を強く主張している。孫氏は4月25日の民主党議員の勉強会で講師に招かれて、「いま政治がなすことは、国民の利益か、既得権の擁護か」と力説したうえで発送電分離と電力市場の開放、国際的な電力融通を説いている。実現するかどうかはわからない。しかし、かたくなに変化を嫌う電力体制にはいい刺激になるだろう。ちょうどクリントン政権のゴア副大統領が提唱した情報スーパーハイウエイ構想を彷彿させる孫氏の「アジア・スーパー・グリッド構想」である。
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