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暴力団排除社会に求められるコンプライアンス(後)
発信!北九州
2011年9月 8日 07:00

<問答無用の社名公表>

 暴力団絡みの事例は、福岡でも起きている。今年3月、ゴルフコンペなどを通じて暴力団組員と密接な交際をしていたとして、福岡県警は建設業者9社について県への通報と業者名の公表を行なった。会の名称は「おにぎり会」とされ、会員企業は約70社。なかでもとくに暴力団とかかわりが深いと認定された「一夜会」(「おにぎり会」の中核とされる)メンバーの建設会社が批判の矢面に立たされ、各社とも、相応の行政処分を受けたことに加えて著しい信用の低下を招いた。
 大林組の九州支店が関わっていたことで面白おかしく取り沙汰された感のある「おにぎり会」事件だが、気になる点も残る。というのも、氏名を公表された1社が取材に対して「寝耳に水」との反応を示したからだ。
 この業者は、自社の会長が「おにぎり会」に出ていたことを認めたうえで、「会長のプライベートであること」、「(当然ながら)現経営陣は暴力団との関わり合いを持っていないこと」、「社名公表に先立ち県警から事情を聞かれたことは一切なかったこと」などを挙げ、不意打ち的な社名公表と信用低下について不満を語っている。また、「一夜会」の存在があるとはいえ、「おにぎり会」加盟業者のなかで社名の公表を受けた企業と免れた企業との線引きの基準は明確ではない。この点で、手続保障の面や捜査機関側の恣意が入り込む余地については問題があると言わざるを得ない。

 しかし、むしろ重要なのは、企業経営と暴力団が密接に結びついていなくとも、「暴力団関係企業」と名指しされる可能性があるという事実の方だろう。付き合いが深かろうが浅かろうが問答無用で名指しされ、企業経営には甚大な爪跡が残る。しかも、そこには弁解の余地や事後における信用回復の手立ては事実上用意されていないに等しい。
 かかるリスクを冒してまで「付き合い」を続ける必要があるのか、あるいは、自身は「付き合っている」との認識がない場合も含めて、経営者としては社内の行動準則を改めて見直していく必要があろう。
 ちなみに、社名を公表された9社のうち半数以上は、銀行・信用金庫から即座に取引停止を告げられている。

福岡県が暴力団関係で排除命令を命じた企業リスト

<落とし穴はあちこちに>

 コンプライアンスへの配慮は、反社会的勢力との付き合いの有無に限った話ではない。「偽装請負」に「産地偽装」、近年では「偽装ラブホテル」といった単語も頻繁に耳にする。先日逮捕者を出した「クレジットカードのショッピング枠の現金化」事業は、貸金業法上の規制の脱法行為(社団法人日本クレジット協会の見解)として、業界の存在自体が問題視されつつある。

 他方で建設業界では、建設業法上や独占禁止法上の規制、元請・下請間のルールなどがコンプライアンスの問題として持ち出されるが、指名停止などの理由として最近とくに目に付くのが、「経営事項審査(経審)」における虚偽申告だ。経審は入札ランクを決定する基礎資料となるだけに、従来から「経審対策」と称した数値の調整や粉飾決算といった企業側の不正行為が散発。さらに、建設業界の競争激化と不適格業者排除の流れによって審査そのものが厳格化される傾向にあることも、虚偽申告を理由とした処分が多く出される要因となっている。
 もちろん、虚偽申告は不正行為であるため、これに対して厳しい処分が下されることに異論はない。ただ注意すべきは、名指しで批判するための方便として、経審上の(軽微な)瑕疵が用いられたのではないかと推測される事例が散見されることである。

 たとえば、先の大内田建設の事例を見ても、「粉飾決算(虚偽申告)→建設業許可取消」という流れは余りにも唐突過ぎる。通常では考えられないほどの重い処分の裏には、反社会的な組織とのつながり(大内田建設側は否定し、立件もされていない)や、捜査に対する非協力的な態度が影響したと考える方が自然だろう。しかも、根拠となる建設業法は、「情状がとくに重いか否か」という曖昧な基準でこれを可能にしている。きっかけがタレこみであろうと不始末であろうと、関係ない。何らかの要因で行政側から目を付けられ、しかも経審などにわずかな瑕疵さえあれば、「情状」という匙(さじ)加減次第で「お取り潰し」に遭うリスクを抱えることになる。

2010年6月に破綻した大内田建設(株)福岡県暴力団排除条例

<明確な物差しの提示を>

 地場建設業界を中心としたいくつかの事例を通じて、わずかな瑕疵が会社を存亡の危機に追い込むケースを見てきた。「締め付けが厳しい」と感じた読者も少なくないと思われるが、ほかの業界ではこのような流れが一般化しつつある。
 記憶に新しいところでは、NOVAやコムスンが本業以外の些細なことを役所に指摘されたことをきっかけに市場から退場させられたほか、焼肉チェーンの「焼肉酒家えびす」は1回の(一連の)食中毒事件で倒産に追い込まれた。企業を守り続けていくためには、もはや一分の隙も許されないとの認識を欠かすことはできない。

 他方で、行政側に対する注文もある。先の大内田建設と岩永工業の事例では、決算書を粉飾した大内田建設が建設業許可の剥奪で、暴力団員との宴に参加した岩永工業が指名停止処分となっている。両社の行為を是とするわけではないが、バランスを失してはいないだろうか。また、福岡県が全国に先駆けて施行した暴力団排除条例では、「暴力団員等に対する利益供与の禁止」が謳われているが、規制対象となる「利益供与」の定義は明確と言えるだろうか。多くの企業が暴力団排除に協力姿勢を示している今だからこそ、明確な物差しを提示する必要がある。不明確な規制は「所詮、行政の匙加減次第」という疑念を生み、ひいては「行政と暴力団は繋がっているのでは」との疑心暗鬼を呼びかねない。
 実際に巷で囁かれている声に耳を傾け、企業活動が委縮する事態の回避を望むところである。

(了)

【田口 芳州、新田 祐介】

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