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住民の不安を省みない福岡市政~西浦地区のフェロシルト処理問題
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2011年11月23日 07:00

 昨年(2010年)、NET-IBで、放射性物質が検出されたリサイクル製品フェロシルトの搬入問題に関する記事を掲載した。福岡市は、以前と変わらぬスタンスで「環境基準値をクリアしているから問題はない」との見解を示している。だが、いまなお「身体の健康を脅かし、土壌や海など自然が破壊されないか不安でならない」という地元らの声も多いことは事実である。

2010_0721_itoshima.jpg 今一度フェロシルトについて説明すると、石原産業(株)(本社:大阪市)のリサイクル製品で、01年から土壌補強・埋戻材として販売されていたが、05年に環境基準を超える六価クロム、フッ素、放射性物質のウランやトリウムなどが検出されたことで産業廃棄物と判断された。当時、03年に三重県のリサイクル製品に認定されたことで、岐阜県、愛知県、京都府などでの埋立てに使用されていたが、問題発覚以来、各自治体は石原産業に対してフェロシルトの撤去命令を出している。そして、(有)愛州産業(本社:福岡市中央区)により福岡市許認可のもと、その危険な成分が含まれる産業廃棄物(フェロシルト)を受け入れ、最終処分が行なわれているのである。

 石原産業(株)については、詳細を述べるまでもないが「四日市ぜんそく」という一大公害を引き起こした1社である。そして、フェロシルトの搬入が確認された土壌から環境基準を超過する六価クロムおよびふっ素が検出されたことや、さらにチタン廃棄物の放射線量を16年間恒常的に改ざんしていたことなどからわかるように、同社の企業倫理が極めて歪んだものであることは明らか。なぜ、このような倫理的に問題のある企業の産業廃棄物の搬入を易々と認めたのか理解に苦しむ。

 10年10月21日、福岡市議会の決算特別委員会で、笠康雄市議がフェロシルト問題について環境局長に質問した。その議事録の答弁より福岡市側の姿勢が見えてくる。以下、議事録より引用する。福岡市民の方は関心を持ってご一読いただきたい。

 「石原産業(株)から聴取した報告によると、09年度末までに搬入されたフェロシルトは約32万トン。そのうち、09年度の搬入実績は、約4万2,000トンである。搬入された経緯は、石原産業(株)が販売したフェロシルトの量は約70万トンであるが、埋め戻し周辺の土砂もあわせて回収する必要があったことから、回収する量は約178万tと聞いている。廃棄物処理法により、無機性汚泥であるフェロシルトは、石原産業(株)自らの責任で適正に処理することとされているが、処理できない場合は、許可を有する者へ処理を委託することとなっているので、石原産業(株)は、三重県内を初め、管理型最終処分場を有する全国の業者と処理委託契約を締結したものである。(有)愛州産業は、1994年に、本市で唯一の産業廃棄物の管理型最終処分場を設置し、無機性汚泥の最終処分を行なう許可を有しており、石原産業(株)との処理委託契約により、フェロシルトの受け入れ業者のひとつとなっているところである。約178万トンに対して、(有)愛州産業の受け入れ契約量は35万トンであり、全体の19.7%となっている。今後は、石原産業(株)から聴取した報告によると、石原産業(株)と(有)愛州産業との間で締結した委託契約では、今後、約3万トンのフェロシルトが搬入される計画である。水質検査については、最終処分場からの水処理後の処理水について、年に1回、事前に通告した上で処理水を採取し、六価クロムやフッ素など管理型最終処分場の排水基準項目である全43項目の検査を実施しているところである。フェロシルトの搬入が始まった2006年度以降に本市が検査を行なった44検体については、そのうち13検体から六価クロムが検出されているが、最も濃度が高いもので1リットル当たり0.3ミリグラムであり、埋め立て基準を十分に下回っている。なお、09年度に検査を行なった6検体については、いずれの検体についても六価クロムは検出されていない」

 これを受けて笠市議は、「産廃処分場は、高いところにあるから、流れていったら当然海へ入るし、海に入る前に農地があり、農家の人たちは川から流れてくる水を使う。それなのに心配がないというほうがおかしい。環境局は、埋め立て基準に合致しているので問題ないということだが、それなら環境局は不要である。環境を守るため、よく考えてほしい。2010年の夏は暑く、雨も少なかった関係で、強風時には空中への粉塵飛散も確認されており、この処分場のすぐ近くには、野菜や葉たばこの畑が点在している。野菜などは、環境問題による悪い風評が発生すれば、その販売にも直接影響してくるが、野菜や葉たばこの環境調査は行なわれたのか」という質問をした。

 環境局長の回答は、「市としての環境調査は行なっていないが、廃棄物処理法により、処分場の設置者みずからが周辺地域の生活環境に配慮することとされており、(有)愛州産業に対しても、処分場周辺の住民から寄せられる苦情などについては、適切に対処するよう指導しているところである。粉塵対策については、埋め立て処分に当たって廃棄物が飛散しないよう、(有)愛州産業では適宜処分場内に散水を行なっているところである。本市としては、今後とも散水などを続けるとともに、埋め立てが終了した箇所については、速やかに土を覆いかぶせるよう指導をしているところである」というものであった。

 つまり、福岡市は、一般的法的根拠を示して、フェロシルトは問題ないから搬入を許可しているというスタンスである。だが、笠市議が環境調査を実施しているのかという問いには「行なっていない」と回答し、指導しているという言動に終始した。

itosima.jpg 11年3月9日に行なわれた2011年条例予算特別委員会においても、同年5月に退任した大石司前市議もフェロシルト問題について質問した。まず、当地が農業振興地域の農地を一時的に処分場として活用する際、どのような規制が存在することについて訊いたが、農林水産局長(以下、農水局長)は、「農地は農業生産の基盤であり、地域における貴重な資源であるとの観点から、農地以外の用途に使用する際には、農地法による規制があり、農業委員会を通じて県の転用許可が必要となる。また、一定期間のみ他の用途に使う場合においても、一時転用許可が必要となっている」と答弁した。

 次に「愛州産業の農地の一時転用延期が最後に許可されたのはいつか」に対して、農水局長は「当該農地については、1993年当時、起伏のある傾斜地などで有効利用が図られていなかった農地に、公共工事残土や産業廃棄物を埋め立て、適切に覆土、造成することにより、優良農地にするとのことであったため、一時転用許可が行なわれたものである。その後も同様の申請であったので、許可の更新がなされている。処分場内の農地全体の19,218㎡については、2000年7月に、02年5月末を期限として一時転用の許可が更新されており、全体についてはこれが最後の許可である。また、当該農地の一部の4,985㎡については、03年12月に、04年12月末を期限として一時転用の許可が更新されている」と回答した。

 その後、「04年12月時点で処分場は無許可ではないか」という質問に対しては「農地法の一時転用の件については、フェロシルトが搬入された06年5月の時点で、一時転用の許可が切れているとの情報は受けていたが、廃棄物処理法においては、施設の構造や排水処理設備などが基準を満たしていれば、施設に許可をしなければならないこととなっており、農地法の一時転用の許可が切れていることをもって廃棄物処理法の許可を中断することはできないものである」と、環境局長が説明。一時転用の許可が切れていたことに対して、農水局と環境局との間でコミュニケーションが取れていないことが露呈した。

 さらに農水局長は、「農地として活用されていないことについては、02年および03年には、一時的に大根などの野菜が作付されていたことから、農地に復元されるのではないかということで、04年12月まで一部のところを許可したものである。それ以降、農地としては利用されていないので、農地法上は違法な状況にあると考えている。環境局には、そういう内容を知らせているが、具体的に産業廃棄物処理場をどうかするという協議はしていない」と、説明。つまり、フェロシルトが搬入されていることを知らしていないのである。

 大石前市議は、「非常に無責任ではないかと思う。市民の健康を守り、環境を守るということについては、神経を使ってほしい。農林水産局は、優良な農地をつくるためにということで一時転用を許可しているわけであり、それについては環境局も十分承知をしているのであるから、両局で知恵を出しながらこの問題に対処していくことが必要ではなかったかと思う。今後については十分協議をしていくということなので、しっかりその方向で対応してほしい」と、要望。そして、「昨年10月に農業委員会と連携して是正について強く指導していくと答弁しているが、どのような指導をして、その結果はどうなったのか」という質問した。

 この質問に対して農水局長は、「当該廃棄物処理処分場内の農地に関する指導については、10年12月16日、農業委員会とともに愛州産業に対し、速やかに農地として利用するよう是正を指導したところ、順次、農地に復元していくとのことであった。その後、地元の農業委員と連携して、愛州産業の処理場内の現地調査を定期的に行なっているが、11年2月14日の調査では農地としての利用がなされていなかったため、今後とも引き続き指導を行なっていく」と、回答。

 しかし、大石前市議はさらに追及し、「対応が手ぬるいのではないか。法的手段を含めて検討すべきだと思うが、農業委員会が法的手段に訴えるとしても、いわゆる廃掃法があるので、なかなかうまくいかないと思う。そこは農民の立場、あるいは環境保護という立場に立って、また、優良農地をつくるという視点から、環境局などと連携をとりながら対応してほしい。他都市で産廃処分場の跡地が優良農地となっている事例はあるのか」と述べた。市側は、産廃処分場跡地が優良な農地になった私有地の事例はないという。この大石市議とのやりとりのなかだけでも、福岡市のフェロシルト搬入に対して、まるで他人事のような対応が露わになっている。

100722_aisyu.jpg また、フェロシルト自体へも質問しており、「目視だけでは住民も不安に思っているし、泥や砂などを正規のルートで調査すべきである。昨年10月の決算特別委員会において、土壌中の六価クロムは少量の場合は、有機物などとの化学反応によって毒性のない三価クロムに変化し、水に溶けにくい性状に変わると答弁しているが、西浦にある処分場のフェロシルトは安全だということか。六価クロムが無害の三価クロムに還元されるメカニズムを素人にもわかるように説明されたい」と質問。

 「クロムには多くの種類の化合物がある。クロムのイオンの価数が三価のものを三価クロム、酸化状態がより進んだものを六価クロムと言う。六価クロムは非常に強い酸化作用があり、他の物質を酸化した場合にみずからは還元され、毒性のない三価クロムに変化する。土壌中には酸化反応を受けやすい有機物があるので、理論上、六価クロムは有機物を酸化し、みずからは還元されて三価クロムに変化することとなる。環境省が作成した化学物質ファクトシートには、少量の場合は有機物などとの反応によって容易に還元されると記載されているが、具体的な量についての記載はない。本市においては、搬入時のフェロシルトの検査を06年度より46検体行なっており、六価クロムが検出された15検体についても、その濃度は0.05~0.33㎎/リットルと埋立基準である1.5㎎/立冬を十分に下回っている」と、環境局長は以前笠市議に対して答弁した数値を述べている。道路脇や側溝に赤みを帯びた泥が散見されているとも述べており、地域住民の不安は払拭されていないのであろう。

 昨年と今年で1回ずつ、市議会において質疑されていることから、フェロシルト問題への疑念は大きいことがうかがえる。このレポートを書く少し前に市の環境局へ取材を行なった。予想通り、回答から読み取れる市の姿勢は、「法的にクリアされているので、とくに問題はありません。愛州産業の最終処分場への定期的な監視や調査、そして地域への報告は今後も継続いたします」という民意ではなく、ルールのみ則って処理していくというスものあった。

 民意を反映させ、安全で安心の生活ができる環境を整備するのが、役所の本来の姿ではないだろうか。本当に市民生活を豊かにする志があるなら、地域の特性に適応することが困難な国の基準のみを拠り所とするのではなく、そこに地元住民の民意に近い地方公務員が補う姿勢でもって、適正な状況の把握に基づく判断を下すべきではないだろうか。「文句があるならルールを作った国に言ってくれ」かのような無責任な姿勢では、地元のコンセンサスはまったく得られない。

【河原 清明】


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