<ある経営者が呟いた>
筆者は毎年、1月に滋賀県大津市で行なわれる新春経営者セミナーに参加している。会食の席での話だ。IT関連の部品を製造している(年商1,400億円、グループ連結)経営者が呟いた。
「いやー、中国ではもう、労賃安さを頼りにした素材製造の工場の運営はできません。私のところは無人化システムに切り替えていますので、どうにか繰り回しています。こうなると、労賃廉価を狙うならば最終的にはアフリカにまで移転しなければなりません。もう、韓国の企業はリビアなどに進出しています。これでは日本回帰を検討したくなりますが、如何せん日本の不動産の高さでは製造業は成立しません」。ここまではよく聞く話だ。
すると、「ところでコダマさん!!我々の間ではトヨタ・パナソニックの対等合併の噂でもちきりです。情報屋の貴方は御存知のことと思いますが――」と、第二弾の呟きが襲ってきた。
「いやー、考えられますね。エネルギー問題、電気自動車、電気発電住宅という切り口で2社は接近しています。合併は、近々あるでしょう」と平然と応じた。しかし、内心では狼狽していたのだ。「トヨタ・パナソニックが合併、これは大事だ」と、繰り返し自問自答した。会食の料理が砂を噛むほどに味気なかったことは、言うまでもないことだった。
<OBは冷静に解説してくれた>
セミナー帰りの新幹線の車中でも、「大変な事態になるものだ。日本経済の行き詰まりの象徴だな。トヨタ・パナソニックの合併が成就すると、年商30兆円の規模になる。世界有数の企業が誕生することになれば、とんでもないインパクトを与えるだろう。よーく考えてみると、2社には共通したところが多い。意外とスムーズに事が運ぶかもしれない」と、勝手な解釈をし続けた。予想だにしなかったことを突きつけられて、呆然自失としていたからだ。
帰宅してさっそく、パナソニックのOBにTELをした。現在、この男は年金と株取引の財テクで優雅な老後生活を送っている。非常に愛社精神に富んでいる男だからこそ、反論を期待していたのだ。
ところが、「おーい、コダマ!!何を興奮しているのだ。我々のOBたちの間では、1年前からこの2社の統合話を囁いていたよ。常識の範囲の話だ。実際、トヨタもパナソニックとも世界を駆けめぐれる成長戦略行使の壁に、立ち往生しているではないか!!水面下で話し合いがなされているはず」と、この男は冷静沈着そのものの解説を行なった。
さらにこの男は、「ただしな、合併ということはない。まずは持ち株会社を設立して、トヨタ・パナソニックがぶら下がるという組織方針が打ち出されるであろう」と、自信あふれる予言まで下したのだ。この男が株をやっているから情報収集力に長けているのはわかるが、「こんな素人に教えられるとは...」と、強い嫉妬心を抱いたのも事実だ。
しかし、まー、世の中は様変わりしてしまった。2011年3月11日以降、日本の社会は構造転換が強行されていたのである。
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