日本では少子高齢化が問題視され始めて久しいが、アメリカでも高齢者の人口が増加の一途をたどっており、医療や介護の面で大きな負担となっている。いわゆるベビーブーマー世代が相次いで第一線を退き始めており、アメリカでは高齢者予備軍と言われる人々の間で健康管理が関心を集めるようになってきた。アメリカでは100歳以上の高齢者は「センテネリアンズ」と呼ばれ、13万人に達しており、今後も増え続ける勢いが見られる。肥満や糖尿病患者が多いわりには、意外にもアメリカは長寿社会ということになる。
そんなアメリカで、このところ大きな注目を集めているのが「リバース・エイジング」という発想法である。我が国では「アンチ・エイジング」という言葉が普及しているように、いかに年を取ることに抵抗するかという発想から美容整形や運動、食事の内容を工夫し若さを保とうとするビジネスが急成長を遂げている。しかし、アメリカで話題となっているリバース・エイジングは年を取ることをストップさせようとするのではなく、「自らの年齢を20歳ほど若返らせる」ことを目標としている。
そのためには本人の意識に働きかけることが重要としており、表面的にシミやしわを取り除くとかホルモン注射によって肌の張りを取り戻すとかといったアプローチとは一線を画している。この若返り運動の提唱者はハーバード大学で女性初の心理学教授となったエレン・ランガー教授である。
彼女に言わせれば「若返りのためには医師に頼る必要はない」ということ。アメリカの国家財政の重荷になっている社会保険費を減らすためにも、75歳の高齢者が55歳まで若返ってくれれば、大きなメリットが生じるというわけだ。しかもその方法は極めて簡単で、「一人一人の生理学的な体内時計を20年前に巻き戻す」というのである。
ランガー教授によれば、「リバース・エイジングは決してSFの世界の話ではない」とのこと。長年にわたる実験、研究の成果をもとに彼女は一つの結論を導き出した。それは「現在の医学においては、病気を特定したり、その治療法を提供したりはできるが、その応用効果に関しては保証の限りではない。なぜなら、患者一人一人の置かれている状況は千差万別で、万人に共通する薬や治療法は存在しないから」ということである。
要は、患者一人ひとりが自分の健康状態や精神、肉体の状況に関して、誰よりも自信を持って判断できる立場にあるということに他ならない。「医者はあくまでコンサルタントとして利用すればよい」という考えである。実に合理的な考え方といえよう。
多くの人々は高齢の域に達すれば、誰もが記憶力の低下や、筋肉の衰えに悩まされることになると思いこんでいる。周りの状況や常識的な判断に左右され、自らの肉体や意識の現状は言うに及ばず、秘めた可能性について徹底的に試してみることを諦めているケースが多い。できない可能性にとらわれ、できる可能性を無駄にしているのではないか。
そのような観点からランガー教授は1979年に興味深い実験を行なった。ニュー・ハンプシャー州にある老人ホームに入所している高齢者たちを2つのグループに分けて行なった実験である。1つのグループには自分たちが若かった頃の思い出話に花を咲かせるように促した。もう1つのグループには自分たちが若かった頃と全く同じような環境の下で過去を追体験することを促したのである。
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<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。
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