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コダマの核心

増資インサイダー問題で、当局に徹底抗戦して解任された~野村HDの渡部CEOと柴田COOの2トップ
コダマの核心
2012年7月30日 14:21

 野村ホールディングス(HD)が金融庁・証券取引等監視委員会との間で4カ月にわたり繰り広げてきた増資インサイダー取引をめぐる"全面戦争"は、野村が白旗を掲げて降伏――。野村HD会長の古賀信行氏(61)が、徹底抗戦の構えだったグループ最高経営責任者(CEO)の渡部賢一氏(59)と、最高執行責任者(COO)の柴田拓美氏(59)に引導を渡して事態を収拾した。8月1日付けで、傘下の野村證券社長の永井浩二氏(53)がCEOを兼務、野村HD専務の吉川淳氏(58)がCOOに就く。

<金融庁・監視委に徹底抗戦>
 3月6日。野村HDは、傘下の野村證券の新社長に、永井副社長が4月1日付けで昇格、社長を兼務していた渡部グループCEOは、グループCEOを続投すると発表した。金融庁・監視委は、この人事を「トカゲの尻尾切り」と見なした。永井新社長に野村證券で起きた増資インサイダー問題の責任を取らせ、渡部氏は居座るハラだ、と。唐突な野村證券のトップ交代が、引責辞任を求める金融当局と、その圧力に徹底抗戦する渡部CEOとの"全面戦争"の開戦を告げた。

 渡部氏は社員による増資情報漏れの再発防止策を発表した6月29日時点では、辞任する気はさらさらなかった。渡部氏は同日、野村が2010年に主幹事を務めた国際石油開発帝石、みずほフィナンシャルグループ、東京電力の増資情報が事前に漏れたことについて、自社の社員が主要な役割を果していたことを正式に認め、自身の報酬6カ月50%削減や、子会社の野村證券投資家営業部の5日間業務自粛の社内処分を発表し、謝罪した。インサイダー取引問題に一定のケジメをつけたことで乗り切れると判断したようだ。しかし、幕引きとはいかなかった。

<全日空の公募増資の情報漏れ>
sora_17.jpg 渡部氏追い落としのトドメの一撃は、全日本空輸(ANA)の公募増資であった。ブルームバーグは7月10日、「証券取引等監視委員会が全日本空輸の公募増資で情報漏れに基づくインサイダー取引がなかったか、調査に着手した」と報じた。監視委は、増資公表前日の7月2日に全日空株式が空売りによる売買高が過去3カ月で最大となったことを受け、監視対象に入れたという。

 ウォールストリートジャーナル日本版(7月27日付)は、「全日空株については、増資の引き受け主幹事の1つである野村証券が全日空の増資発表前に英国法人を通じて空売りを進めていたことを東証データでも示されている」と報じた。
海外メディアは、全日空の公募増資でも情報漏えいがあったとして、渡部氏の辞任の引き金になったことを示唆した。

<公募増資発表前の異常な売買高>
 この報道には納得できた。全日空の公募増資の発表直前の売買高は衝撃的だった。全日空は7月3日の取引終了後、最大2,110億円の公募増資を実施すると発表した。主幹事を務めるのは、野村證券、ゴールドマン・サックス証券、JPモルガン証券とドイツ銀行。

 公募増資発表の数日前からの売買高は明らかに異常。6月27日は775万株、28日は1,091万株と、売買高は1,000万株前後だ。それが6月29日には前日比1.4倍の1,595万株。さらに週明けの7月2日はさらに1.5倍の2,403万株に増加。そして7月3日には1億427万株に膨れた。6月28日に比べて9.5倍だ。空売りで急増したのである。全日空が公募増資を発表したのは、7月3日の取引が終わった後だ。

 事前に公募増資情報が漏れていなければ、このような売買高の動きにはならない。増資インサイダー問題の最中に情報漏れが起きたのだ。激怒した監視委は、インサイダー取引と認定、実態解明に乗り出した。渡部氏に王手をかけたのだ。これで勝負がついた。

 この間、水面下で、当局と極秘会談を重ねて、事態収拾に動いていたのが古賀会長。当局の強硬な姿勢を思い知った古賀会長は、渡部CEOと柴田COOの首を差し出すことで、恭順の意を示したのである。

<主幹事から野村外しが進む>
 渡部氏の包囲網が築かれた。6月18日、財務省は日本たばこ産業(JT)株の売り出しの主幹事から野村證券を外した。東日本大震災の復興財源捻出(約5,000億円)のため、政府保有の株式の一部を売却する際の主幹事証券である。

 続いて7月12日、再上場を目指している日本航空(JAL)の約96%の株式を保有する企業再生支援機構は、野村證券にグローバル・コーディネーターから外した。グローバル・コーディネーターとは、国内外でJAL株式を売り出す幹事証券7社を統括する総元締めである。インサイダー増資疑惑の渦中にある野村を、国が出資するJALの主幹事にするわけにはいかないという理由だけではない。激しくシェア争いをする全日空増資の主幹事に野村が入ったため、JALと支援機構が腹を立てたことが大きかった。

 JTとJALが口火を切って、企業の間で野村を社債の発行業務の主幹事にしない"野村外し"が相次いだ。JR東日本の社債募集では、主幹事には常連の野村證券の名はなく、みずほ証券と三菱UFJモルガンスタンレー証券が指名された。関西電力や中国電力、川崎重工業などの社債の引き受けでも、増資情報を漏えいしていた野村、大和証券、SMBC日興証券の大手3社が主幹事から外れた。取引先離れが進み、渡部氏の外堀は埋まったのである。

<手段を選ばない営業姿勢>
 野村HDのCEOに野村證券社長の永井氏を決めたのは古賀会長である。古賀会長が院政を敷く新体制は、増資インサイダーで失った信頼を回復できるだろうか。インサイダー取引問題で、外部の弁護士からなる調査委員会がまとめた調査報告書によると、情報を洩した機関投資家営業部について「収益の数値目標を達成するためには、手段を選ばない営業姿勢だった」と指摘。中込秀樹弁護士は会見で「部を挙げて(不正を)やっていた」と述べた。

 改善策では、事件発覚後も野村證券に対し事実究明をせず、事実確認すらしなかった経緯が盛り込まれた。グループ内で野村證券は"独立王国"だったのである。

 新CEOの永井氏は、中央大学を卒業して野村證券に入社。本店営業部時代に最年少課長に抜擢され、京都支店長、大阪支店長を歴任するなど国内営業一筋できた。"ノルマ証券"といわれたモーレツ営業マンからの叩き上げである永井CEOが、「手段を選ばない営業姿勢」の企業体質を変えることができるのか。大きな期待は禁物だろう。


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