<SMBC日興証券の不祥事>
SMBC日興証券の渡辺英二社長は先月25日、元執行役員がインサイダー取引に関わったとして逮捕されたことを受けて記者会見し、自身の責任については「先頭に立って、失われた顧客の信頼回復に努めていく」と述べて辞任を否定し、他の役員など組織的な関与も否定した。
同社は4月にも金融庁から行政処分を受けており、不祥事が相次いだことについて渡辺社長は、教育研修や社内の監査などにより総合的に対応すると説明。
逮捕された元執行役員の吉岡宏芳容疑者(50才、東京都品川区)の出向元、三井住友銀行の伊藤雄二郎取締役も会見に同席。同行の内部調査で、元執行役員が今回の逮捕容疑とは別のインサイダー情報漏洩を認めたため、今年5月に懲戒解雇にしたと説明し「二度と起こらないよう努める」と述べた。
逮捕された元執行役員の吉岡宏芳容疑者らによるインサイダー取引事件で、横浜地検が今月15日吉岡容疑者らを金融商品取引法違反(インサイダー取引)容疑で再逮捕している。
吉岡容疑者は、逮捕容疑となった物流会社「バンテック」(川崎市)の情報以外にも、平成23年2月に経営陣による自社株買収(MBO)を発表したワイン商社「エノテカ」(東京都港区)など十数銘柄の情報を公表前に知人の金融会社社長、金次成容疑者(67)らに漏らした疑い。金容疑者らはインサイダー情報を踏まえた株式の売買で数百万円の利益を得ていたとみられている。
<証券業界の株屋的体質からの脱却はできるのか>
今回摘発されたインサイダー取引は、いずれも増資を取り仕切る主幹事証券から情報提供を受けており、共に違法性の高い犯罪行為である。それを日本の大手証券会社である野村、大和、日興が関与していることが今回判明したが、実際は氷山の一角との話も聞かれる。
インサイダー取引のメリットを享受した旧中央三井アセット信託銀行(現三井住友信託銀行)の例をあげると、運用で既に保有しているみずほ株式を売却しポジションから外すことで、増資の希薄化に伴う株価下落により、将来被ったであろう巨大な損失を回避している。
最終的に最も不利益を被るのは、インサイダー情報を知らない一般投資家、とりわけ深刻なのは、インサイダー情報に基づくカラ売りに加え、増資による希薄化に伴う株価下落によって損失を被るのは既存の株主達である。既存の安定株主を犠牲にして、インサイダー取引により手数料収入が見込めるヘッジファンドなどの一部機関投資家への情報漏洩は、証券会社が株屋的な倫理観しか持っていない証左であると言えよう。
<野村証券グループの金融不祥事に対する当局の対応>
証券取引等監視委員会は来月上旬にも金融庁に処分勧告する。金融庁は野村証券に業務改善命令を軸にした処分内容を決めると見られ、松下忠洋金融相は26日夜、トップ交代を決めた野村HDグループについて、「自浄作用が発揮されており、概ね評価できる」と述べた。
<求められる証券業界の「自浄作用」>
東京証券取引所の斎藤惇社長は27日の定例記者会見で、野村の増資インサイダーに触れ、「野村に籍を置いた人間として後輩の姿を見ていて残念で悔しい」と語り、野村HDのトップ交代については「新経営陣が増資インサイダーのけじめをつけて、前進してほしい」と元野村証券副社長としての心境を明らかにした。
オリンパスの「飛ばし」を指南した証券会社アクシーズ・ジャパン証券の元代表取締役・中川昭夫容疑者(61)、投資コンサルティング会社グローバル・カンパニー社長・横尾宣政容疑者(57)、同社取締役・羽田拓容疑者(48)、同社元取締役・小野裕史容疑者(50)の4人はいずれも野村証券OBであり、企業年金消失問題を引き起こしたAIJの浅川社長も野村証券OBである。今回のインサイダー取引による野村証券の不祥事が突出する事態に、昨今の金融資本市場特に、証券業界を巡る問題の根は深い。規律を忘れ「やりたい放題」の巨大な投資銀行とヘッジファンドの貪欲なもたれ合いと決別することができるのか。投資家の信頼回復には野村HDグループだけでなく、日本の証券業界全体が「自浄作用」を求められている。
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