先日、「受験を考える保護者の会」なる市民団体(?)から、1通の封書が弊社に寄せられた。そのなかには、ある学習塾の不正に関して独自に調べたとされる資料と、調査の意図が記された告発文書が同封されていた。同団体はいったい何が目的で特定の塾を取り上げ、このような資料を関係各所にばら撒き、ネットも使い批判を展開しているのか。謎は深まるばかりだ。
<いったい何が目的か?>
告発文書は、ほかにも「テストのみの参加・退塾者などを含めている」「卒業生が大学受験時に名義貸しをしている」「架空名義」などといった水増し方法について指摘している。この件についても英進館担当者は、「そんなことはまったく行なっていません。テストのみの参加・退塾者などに関しては、そもそもその生徒がどこを受験し、合格したのか一切把握しておりません」と全面否定。「もし仮にテストなどのみの参加を入れるならば、合格者数ははるかに増えます」とコメントしている。数々の水増し方法を指摘する「受験を考える保護者の会」の検証は、現状では推測という判断しかできず、証拠能力には欠ける。
同団体が中学受験の水増し事例として挙げている、広島学院中学(広島市西区)の合格実績。英進館は昨年6月、広島の進学塾である鯉城学院の経営再建のため、同学院の事業譲渡を受けた。鯉城学院の広島学院中学合格実績は09年度41名、10年度29名、11年度46名、12年度42名で、「11年度にV字回復を果たし過去最高の実績を出した塾が経営破綻するはずがなく、経営譲渡される前の英進館の生徒を鯉城学院の合格実績に加えた」と同団体は指摘する。
しかし、広島学院中学全体の合格実績を俯瞰すると【表】の通り。10年度は前年と比べて受験者数が100名以上減少しており、それに比して合格者数が減っただけとも見てとれる。
最初に告発文書を見たとき、ここまで内部事情に詳しい「受験を考える保護者の会」とはいったい何者なのか、という疑問がまず生まれた。牽強付会に感じられるところもあるが、ロジックはきちんと組み立てられている。まるで業界通から情報提供がなされたかのような内容だ。
さらに取材を進めていくなかで、同様の告発文書が関係者しか知り得ないような場所(英進館と取引のある広告折り込み会社、かつてある塾に通っていた生徒の個人宅など)にも配布されていることがわかった。そうだとすれば、とくに個人宅の住所はどのように調べたのか、興味は尽きない。
英進館担当者はこの件に関して、「弊社が確認できた範囲だけでも、九州内の私立中学・高校、福岡市内の公立小・中・高校、北九州市内および鹿児島市内の公立小学校、各新聞社を中心にマスコミ関係、同業他社など、常軌を逸するほどの箇所に送りつけられています」とする。また、「学校・企業にとどまらず一般のご家庭にまで届き出したことが判明しました。文書が届いたご家庭に確認したところ、ある共通点を見出すことができました。すべての方が、福岡市中央区に本部を置くある学習塾に『以前に通っていた』または『以前に資料請求などで個人情報を伝えた』ということでした」としている。
告発文書が届いて以来、同団体のブログを日々眺めていると、7月2日(月)午後10時53分に「明光義塾ですか?」、同12日(木)午後3時40分に「EDINAですか?」などという匿名の書き込みがなされていた(現在は消去されている)。両塾を運営するアネムホールディングスも何らかの関わりがあるのではないかと思い、同社に事情を話して見解を得るべく取材を申し入れた。すると「当社はまったく関係ありません。今回の件については関わりあいたくありませんので、取材はお断りします」との回答を得た。
このように、各所に波紋を広げている正体不明の団体「受験を考える保護者の会」の目的は何なのか。単なる英進館のバッシングか、本当に学習塾業界を良くするための行為なのか。「告発文書はライバルから発信されているものだろう」と企業戦争の謀略として見る業界関係者もいる。
英進館担当者は「事ここに至った今、弊社としましても到底看過することはできず、現在、福岡中央警察署に被害届を提出し、捜査を開始していただいています。警察が本格的に動き出した今、犯人逮捕も時間の問題かと思われます」としており、刑事事件への発展の様相も呈しており、今後も動向が注目される。
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