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「人生」極める

第3回 今、棋士にできること~第1話「未来の日本が『考える国』であるために」(1)
「人生」極める
2011年11月30日 13:18
社団法人 日本将棋連盟 大内延介九段

<目下の使命は「将棋の普及活動」>
大内延介九段.jpg 日本の代表的な遊戯のひとつである将棋は、どこか孤高な印象がある。多くの人々に親しまれてはいるものの、近寄りがたさを感じている人も少なくない。そう告げると大内延介九段は「広告業界の知人も、似たようなことを言っていましたよ。将棋は、広い情報世界の片隅で、特殊な場を作っている、とね」と、微笑んだ。その表情はとても穏やかで、孤高のイメージが、少し揺らいだ。

 怒涛流と呼ばれた豪快な棋風を持ち、振り飛車穴熊やツノ銀中飛車を流行させた名棋士、大内延介九段は、2010年4月、惜しまれながらも47年間の現役棋士生活に終止符を打った。今まで対局通知を中心に組まれていた日常が、自分の生活中心に回り始めた。強い緊張感がともなう対局を行なうことは、もうない。緩急によってメリハリがついていた時間の流れを、どう使うかは自分次第。掌中に収められた自由の駒を、今はどこに置こうとしているのか。

 「対局することはなくなりましたが、棋士には他にも大事な使命がありますからね」大内九段はそう言って、棋士の三大使命を示した。その三大使命とは「対局」「将棋の普及活動」「日本の伝統文化の継承」。目下の興味は「思考能力の高い子どもたちを育てるのに役立つ将棋を普及させることにあるという。

 1950年代「1億総白痴化」という言葉が流行した。TVの普及によって本を読む機会が減ると、思考力が低下するのでは、という懸念から生じた警鐘だった。その後様々な娯楽が生まれ、生活自体は豊かになった。が、たしかに「読まずに解かる便利さ」が思考力の修練を促したようには思えない。

 生活水準の向上は、子どもにものを与え過ぎ、考えさせない風潮も作った。今は政治のあり方も、TVの映り具合によって左右される有様だ。「現代の日本にとって一番大切なのは頭を使う力を伸ばすことです」と、大内九段。思考能力を高めるには将棋や囲碁、そろばんが最適だと太鼓判を押す。「日本将棋連盟でも、将棋を教育界に普及させるために予算を組んでいます。文部科学省も動き始めましたね」。

<将棋を教育業界に導入した先駆者との出会い>
1130_shogi2.jpg 大内九段の交友関係は幅広く、著名人との交流も多い。早くから教育界に将棋と囲碁を取り入れていた昭和薬科大学第7代理事長の荻原光太郎文学博士とも懇意にしていた。荻原先生は、すでに1970年代に、大学の教養課程に将棋と囲碁を取り入れる案を文部省に通していたという。将棋と教育を結ぶ第一人者といってもいい。「将棋は学問だから、テキストが必要でしょう、と言われて教材作成をしましたよ。あれは大変でしたねえ」と、当時を思い出し、目を細める大内九段。「荻原先生は素晴らしい方でしたよ。大学で全国高校将棋選手権大会を開催するときはいつも、遠方から集まった高校生に、よく来たね、と声を掛け、先生自ら下足番をされるんです」

 子どもは大人を見て多くを学ぶ。将棋道を歩む子どもたちは、大人に礼を尽くしてもらって、どんなにありがたく思ったことか。礼に始まり、礼に終わる将棋の世界。勝ち負けの価値を知っているから、自分より強い人を尊敬する気持ちも自然と備わる。尊敬する大人にもてなされ、誇らしく思ったに違いない。

 だが、はたして現代の子どもたちに、このありがたさは解かるのだろうか――。

(つづく)
【黒岩 理恵子】

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