綾戸一由氏は、2012年８月で75歳になった。ちょうど福岡銀行に入社した頃から日本経済が高度経済成長期に入り、以来、銀行員として日本経済の発展を支え、変動期を時代とともに戦ってきた。定年を待たずして経営者に転身した後、紆余曲折を経ながら、73歳で後進に道を譲った。しかしこれは、現役からリタイアして余生を余暇で送る、ということを意味するのではない。綾戸氏にとって、長年構想を練っていた『福岡リーダーズ倶楽部』を立ち上げるという、新しい人生の幕開けだったのだ。『人生を引退する』という言葉は、綾戸氏の辞書にはない。超高齢社会を迎えた日本において、綾戸氏の生き方は１つのモデルになるのではないかと期待の目が集まっている。

＜すべては夢を持つことから始まる＞
　――初めてお会いしたときに、「私は125歳まで生きるつもりです」と微笑みながらおっしゃられたことに衝撃を受けました。今の世の中、「長生きしても、老後の生活が不安だから生きていても仕方がない」と考える方も多いのですから。

　綾戸　最初から本質的な問題から入りましたね。それはまさに『夢』の必要性を表しています。夢がなければ、生きていく気持ちも萎えますよ。逆に夢さえあれば、125歳まで生きて夢を実現させよう、と自然と考えることができます。『福岡リーダーズ倶楽部』も『人間創造　感動創造　夢実現』を掲げています。夢を持つことは、大変重要です。

　――夢の実現と並行して、人間創造と感動創造を挙げていますね。

　綾戸　感動は、行動力の源です。逆に、何でも良いから動いてみたら後から感動が湧いてきた、というアプローチの仕方でも良いのですよ。感動して動く、動いてみて感動する。じっと座り込んで待っていても、感動は生まれません。感動を創造する―、それぐらいの勢いでなくては。

　――それが人間創造につながるということですか。

　綾戸　そうですね。もともと人間力がある方は、自然と行動し、よく感動しています。人間力をつけるには、やはり行動と感動の過程を大切にした方が良いでしょう。

＜誰でも１人では何もできない＞
　――70歳を過ぎてリーダー育成塾を立ち上げた綾戸塾頭も行動力がありますね。さまざまな交流会に出席し、頑張っている方を見つけては感動して歩み寄っていらっしゃる。やはり人間力がおありなのですね。塾頭を務められるだけあります。

　綾戸　塾頭は務めていますが、凡人ですよ。自分１人では何もできません。

　――そうですか。しかし、本当に自分１人では何もできないと思っている人は、自信を見失って後ろ向きになりがちです。老いを迎えた方が意気消沈していくのも、それが原因のように思えます。

　綾戸　今までは、企業でそれなりの立ち位置を与えられて仕事をこなしてきたのですからね。企業人でなくなったら、何をよすがにすれば良いのか、わからなくなってしまうのでしょう。しかし、自分に何ができるのかを教えてくれるのは、結局他人ですから。そういう意味では、誰だって自分１人では何もできません。だから、会社を定年退職したからといって、そう簡単に社会との接点を絶ってしまってはいけないのです。引きこもっていてはいけない。しかし、仕事で利益を上げることに固執する必要もない。大事なのは、長年携わってきた仕事から得たものを使って『社会貢献』するということです。人のために使えばいい。人間力というのは、そういうことができる力のことでもあります。

　――なるほど、「自分１人では何もできない」と自信を見失う人は、誰でもそうであるということに気付かず、無能である、と思い込んでいるのですね。

　綾戸　本当に自分でできないことは、それを得意分野にしている方にお願いしてやっていただくことです。たとえば、毎週火曜日にリーダー実践塾を行なっていますが、私が講師を務めるわけではありません。そこで講師を引き受けていただいている方は、皆、その分野のエキスパートです。できないことはその道の方にお願いして、その代わり、自分にできることで、誰かに貢献すればいい。

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