来たる衆院選でも争点のひとつとなりつつある「脱原発」。我が国の行く末を決める一大テーマに市民レベルで声を上げようと、村上さとこ氏が北九州市議選に立候補する意向を固めた。すでに11月にはJR小倉駅近くに事務所を構え、市内各所から有志のサポーターが連日応援に駆けつけている。
実は村上女史、メディアや市政関係者の間ではちょっとした有名人だ。というのも、先ごろ北九州市で巻き起こった「被災地がれき受け入れ反対運動」におけるリーダーの一人が彼女だったからだ。被災地がれきの受け入れに関し、市当局はもちろん、市議会のすべての会派が全会一致で賛成。市民運動に協力的なイメージの共産党すら相手陣営にまわるなか、村上氏ら市民グループは孤立無援の運動を強いられた経緯がある。そこで同氏らは、ツイッターやメーリングリストなどを活用した運動を展開。結果、反対運動は周辺への影響を懸念する福岡市や下関市の住民に加え、熊本や佐賀といった隣県からの参加者、さらには東北・関東からの避難者が集う場へと変化を遂げていった。
しかし、運動慣れしていない市民集団の反対運動が、周囲との軋轢を生んだことも事実だ。しかも、北九州市民の割合が低い反対運動となったこともあり、市内で大きな支持を得るには至らなかった。市もがれきの受け入れと焼却処分を今年5月から段階的に実施。以降、市が打ち出した焼却場周辺の放射線レベル測定結果の公表や、風評被害防止のためのネット言論監視といった対応策の前に、反対派の活動は徐々に下火となっていった。
ただ、運動によって形成された市民のネットワークは、別のかたちで新たな展開を見せつつあり、村上氏の市議選出馬も、そこに位置づけることができるだろう。同氏は運動を通じて「市議会が市の単なる承認機関になってしまっている」こと、「北九州市政が国政の写し鏡である」ことを感じたという。「がれきの受け入れひとつとっても、広域処理を進めようとする国と、処理を打診された北九州市との緊張関係の下で議論されると思っていました。ですが、市が作った有識者会議に環境省の役人が入っていたのを見て、市は最初から国策に沿った結論ありきなのだと感じてしまいました。国と歩調を合わせるのは、ひとつのやり方だとは思います。ですが、そのようにしてきた最近20年間の北九州市の落ち込みぶりを、皆さんも感じているはずです。この町に必要なのは、内側から変えようとする力なのです」(同氏談)。
村上さとこ氏は、2013年1月27日に投開票される市議選において、小倉北区から出馬し、脱原発と広域処理の中止のほか、市民参加の行政改革や地元中小企業の育成支援を公約に掲げるという。「市議選に出るなんて夢にも思いませんでした」と語る三児の母親の傍らには、先ごろ新党「今はひとり」を立ち上げた俳優・山本太郎氏とのトークセッションのポスターが貼られていた。無所属での出馬ではあるものの、脱原発を求める全国的なうねりが背中を押している様子が垣間見える。
震災を期に、思いがけず気づかされた原発依存への懸念。震災がれきに端を発した運動は、その根底と周辺にある大きな問題の認識へと至り、一人の母親を自主自立の政治活動へと駆り立てている。
■村上さとこ・山本太郎 トークセッション
<日 時>
2013年3月8日 午後6時
<場 所>
小倉駅南口
<テーマ>
『市民目線の市議会改革』と『ドイツを脱原発に導いた政治』
※記事へのご意見はこちら