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中国から飛来するPM2.5による環境汚染問題(4)
未来トレンド分析シリーズ
2014年1月29日 07:00
国際政治経済学者/参議院議員 浜田 和幸 氏

 いずれにせよ、中国では環境対策に関する法整備の遅れが目立っている。1987年に大気汚染防止法が公布され、汚染物の排出濃度と排出総量を規制する試みが始まった。90年代後期には、SO2(二酸化硫黄)規制区と酸性雨規制区が決定され、こうした区域内では、厳しい規制の枠がかぶせられたのも事実ではある。
 さらには2000年には、大気汚染防止法が改正、強化された。そして自動車排ガスについても、排出基準を段階的に高めており、現在では軽自動車の汚染物質、排出制限値とその測定法が制定され、自動車公害への対策が進められている。

ch.jpg とはいえ、こうした規制がありながら、すでに言及したように、PM2.5の蔓延という前代未聞の健康被害をもたらす事態に陥っているのが現在の中国だ。要は、これまでの法律や規制がザル法だったということの証明である。事態を重視した中国政府は13年1月、北京市において工場の操業停止、建設現場の工事中止、路上での排ガス検査、公用車の削減など、緊急対策を矢継ぎ早に打ち出した。そして、大気汚染に関する技術政策や規制基準の強化なども発表した。しかし、全人代の期間中にも重度汚染が相次ぎ、事態の改善は見られなかった。
 そのため、全人代において、環境保護部長の再選人事案については、過去に例のないほどの反対票や棄権票が投じられた。これは明らかに、現在の環境政策に対する国民の不安や不信感を代弁するものであったと思われる。

 李克強首相は、全人代最終日の演説において、大気汚染問題に言及せざるを得なくなった。同首相曰く、「同呼吸、共奮闘」(同じ空気を吸う人々として、共に大気の改善に奮闘しよう)と呼びかけた。その結果、13年6月、国務院常務会議において、大気汚染に関する10項目の措置が決定された。すなわち、「2017年までに、主要産業の大気汚染物質排出を30%削減すること」や「公共交通手段の推進」が謳われた。こうした計画を実現するために、第12次5カ年重点地域大気汚染対策計画には、1兆5,000億元の予算が投じられることになった。中国による環境問題への取り組みが、ようやく本格化し始めたと言えるだろう。

 これまでも中国は1978年に憲法を改正し、「国家は生活環境と生態環境を保護改善し、汚染やその他の公害を防止する」という条文を追加している。その後も、79年に制定された環境保護法などを含め、すでに述べた環境対策関連の施策を次々と打ち出してきている。しかし、事態は一向に改善されてこなかった。その背景には、環境保全のためのインフラ整備や環境規制の執行が不十分という課題が横たわっている。
 環境当局の人員や環境保全投資額も、絶対的に不足していると言えるだろう。たとえば、中国の環境保護部の職員数は350人程度でしかない。日本の環境省は1,500人、アメリカの環境保護省は1万8,000人のスタッフを擁する。人口や国土面積を考えれば、中国の環境保護部の職員はいかにも手薄である。また、環境保全投資額は増加傾向にはあるものの、GDPの2%程度に過ぎない。日本が1970年代に公害防止に取り組んだ頃には、GDPの8.5%を投入したものである。

 我が国の公害対策の教訓に照らせば、中国の取り組むべき課題も浮かび上がってくる。すなわち、行政の対応が進まない場合には、司法に訴えるという道を開くこと。次に、国が動く前に、地方が動くことの必要性。地方の首長が地元の住民利益のために動かざるを得ない環境をつくること。そして、社会問題に関する報道機関の役割を高めることであろう。
 日本ではこのように、三権分立、地方自治および選挙、報道の自由という民主主義のシステムがあり、完璧とは言えないまでも、経済政策と環境政策が十分に機能している。残念ながら、中国においてはこのようなシステムが機能するまでには至っていない。その結果、2013年を通じて、北京市では「軽度」以上の大気汚染を観測した日が189日に達した。そのうち58日は6段階で最悪の「深刻な汚染」と、最悪から2番目の「重度の汚染」だった。要は、北京市民は週1回の割合で重度の大気汚染にさらされているというわけだ。2014年の年頭に当たり、北京市長は「石炭の使用を260万トン削減し、大気汚染防止のために150億元を投入する」と宣言。

 国を挙げての環境改善の取り組みがなければ、こうした深刻な事態は改善されないだろう。13年には河北省だけで8,347の工場が環境汚染源として閉鎖された。こうした政府の介入も大事であろうが、より重要なのは国民の意識改革ではなかろうか。言い換えれば、価値観の持つ重要性である。道徳や教育という観点から自然を敬い、皆が譲り合い、絆を大事にするというような社会の持つソフトパワーが、環境問題の解決には欠かせないはず。そのような価値観あるいは倫理観といった要素が、現在の中国には徹底的に欠如していると思われる。

 この点を克服できるかどうかが、中国の未来を左右するに違いない。また、そうした中国の未来は、間違いなく日本の未来をも左右する。まさに日中の信頼・協力関係が必要とされる所以である。

(了)

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<プロフィール>
浜田和幸氏浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。


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