日常生活のなかで、ライフラインの1つが水道である。現在、福岡市が敷設した水道管の総延長はゆうに3,900kmを超える。この埋設した管の周囲には、福岡県および福岡市が指定した品質の砂「埋戻砂」と呼ばれる改良土を使用することになっている。しかし、ある管工事業者らが、不正に製造して自前で使っているという話が出た。この「埋戻砂」をめぐる不正疑惑を追ってみた。
<元従業員から聞かれた埋戻砂の不正利用>
昨年夏、管工事業者に行なった取材の際、まことしやかに囁かれていたのが「残土を利用して不正に埋戻砂として使っているらしい」という噂だった。だが、その時点ではある管工事業者の元役員の暴力事件の取材に追われていて、詳しく話を聞くことができずにいた。その後、しばらくして取材を開始。そこで耳に入ってきたのが、「福岡市内では2社ほどやっているようだ。1社は自社の敷地内で、もう1社は本社から離れた砂置場でやっているらしい」というものだった。まだ残暑が厳しくうだるような暑さのなか、森林の奥で残土処理を行なっているらしいとの情報を元に、現場へ直行。森に入る手前で、たしかにユンボで作業が行なわれていた。「これなのか」とも思ったのだが、どうやら埋戻砂の製造ではなかったようだ。
その後も、ことあるごとに情報が入ると現場に入り、また定期的に不正を行なっていると言われる現場にも行ってみたが、残念ながら自分自身の目で目視確認はできなかった。しかし、複数の管工事業者から目撃情報が寄せられていたことで、不正への疑惑は高まっていった。
そのなかで有力な情報が入った。ある会社の元従業員からの話で、実際に不正な埋戻砂を使ったことがあるというものだった。場所を公表すると元従業員の身元がバレるため、あえて明確な場所のことは伏せるが、流布していた話から、やはり不正行為は行なわれていた模様だ。
<福岡市における埋戻砂の高いレベル>
埋戻砂は、上下水道管路を埋設する際に、掘り出された残土の代わりに使用される、一定の品質を持つ再生砂のこと。福岡県と福岡市とではそれぞれ品質の基準が異なっており、福岡市の方がより厳しい数値を採用している(資料)。これは、基準値が各々の自治体に任されているためであり、県の品質基準を踏まえたうえで、市がさらに高い品質を求めているためとされる。埋戻砂を販売している業者に話を聞くと、「自治体により基準値が異なるために、それぞれのプラントでつくっています。福岡県が定めた基準でも問題はないと思いますが、福岡市ではさらに高い品質の埋戻砂を要求していますので、もちろんそれに沿った品質の砂をつくり販売しています」とコメントする。しかし、問題はコスト面だという。あまりに高品質な砂になると、工程が長くなることでコスト高になるからだ。
福岡県リサイクル総合研究事業化センターが公表している資料によると、「埋戻用の砂で原料になる再生資源は、コンクリート塊、アスファルトコンクリート塊、下水汚泥溶融スラグ、一般廃棄物溶融スラグ、鉄鋼スラグ(高炉スラグ、製鋼スラグ)、陶磁器くず(廃瓦、レンガくずに限る)に掲げる再生資源を含有したもの。これら以外の再生資源を含有しないこと」としている。
水道局は、「福岡市で敷設されている水道管の総延長は。2010年度現在で約3,900km。これは、福岡から青森までを往復する距離に相当します。水道管の埋設にかかる1km当たりの費用は約1億円となりますので、老朽化した既存の水道管の取り換え工事を順次行なっていくとしても、多くの費用と年月がかかります」とコメントしていた。
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