野党再編の鍵になりそうなのは、民主党の細野豪志や、日本維新の会の松野頼久、そして結いの党の江田憲司が結成した、「既得権益を打破する会」という野党超党派のグループと、安全保障問題では民主党の長島昭久元防衛副大臣がリーダーになって結成した、「国益を中心に現実的な外交・安全保障を構築する研究会」という勉強会だ。
民主党きってのアメリカ通といえば、日本人初の外交問題評議会(CFR)研究員という肩書を持つ長島議員だが、既得権益を打破する会の細野豪志もまた、今年のはじめに急遽訪米し、カート・キャンベル前国務次官補やブレント・スコウクロフト元大統領国家安全保障担当補佐官らと会談している。その後、帰国後には、長島やグリーンと共同で論文を発表したこともある、パトリック・クローニン新安全保障機構(CNAS)らと面会している。CNASを設立したのはカート・キャンベルである。
私がある新聞記者から聞いた話では、この訪米は、朝日新聞の元主筆で親米派の船橋洋一の尽力があったということらしい。真偽のほどはわからないが、船橋は福島第一原発事故対応を取材した『カウントダウン・メルトダウン』(文藝春秋)の取材で細野やアメリカのカウンターパートとも関係を構築しているので、あり得ない話ではない。船橋は民主党政権時代に前原誠司元外相の英語スピーチ(驚くくらいに下手くそ)の指導もしていたと週刊誌で報道されたこともある。
また、細野はつい先日は沖縄で超党派で主に保守系の論客を束ねている日本版のダボス会議「G1サミット」(主宰は堀義人・グロービス代表)に出席する前に、とんぼ返りで3月20日からの民主党を代表しての中国訪問を果たした。この訪中は、オバマ夫人の訪問とバッティングしていたために全然話題にならなかったが、新しい野党代表の体面を保つために、急いで行なったフシも見られる。
なお、この細野訪中には、長島勉強会のメンバーである渡部周元防衛副大臣も同行している。長島と渡部、それとこの勉強会のメンバーの笠浩史の2人は、震災直後に結成された「民自連」という超党派の親米派議員の集まりのメンバーでもある。
長島議員は自民党保守派とも気脈を通じている。彼は野党側の安全保障論客として活躍中で、安倍政権の集団的自衛権公使の動きを受けて、野党としての対案を出すのかもしれない。去年の秘密保護法の国会審議で、衆議院本会議の議場で民主党を代表して同法に反対の立場で演説を行なったのは長島議員だった。同じように、安保関連法案でも野党側の筆頭に立って、「次のリーダー」という印象づけたいのだろう。結構なことである。
去る12月に、長島や前原、笠はそろって台湾にも出かけている。これらの親米派の議員らが野党の安保政策を担当することで、アメリカとしてはどっちに転んでも日本の防衛力強化を実現させることができる。
そして、実に絶妙のタイミングで政局が動く――。
猪瀬直樹前都知事の徳洲会からの政治献金(選挙資金)問題で略式起訴が発表されるのと、奇妙なくらいに同じタイミングで、今度は安倍首相に、去年から菅義偉官房長官を通じて擦り寄り始めていた、みんなの党の渡辺喜美代表に、猪瀬直樹と同じような、化粧品メーカーのDHC会長からの選挙資金提供をめぐる疑惑が週刊新潮へのDHC会長自らの寄稿によって発覚。
同時に、参院選後からリベラル派の野党として存在感を見せ始めていた日本共産党のアイドルの吉良佳子参議院議員の熱愛写真も、同じ週刊誌に掲載されることで発覚した。
さらにその数日前の23日には大阪市長選挙があり、日本維新の会共同代表である橋下徹が歴史的な低投票率により再選された。橋下は自身の推進したい「大阪都構想」を争点にしたとうそぶいたが、維新以外の野党はボイコットし23%という歴史的な低投票率に終わった。再選した橋下市長の任期は、出直し選挙する前の任期の残り1年だけであり、どうせまたすぐに市長選がある。橋下市長は選挙でかかった6億円と言われる公費を無駄遣いしただけに終わった。いよいよ橋下劇場も、本格的に終わりに近づいてきた。
そして、その直後に橋下とはかなり前から「不仲」になっている、石原慎太郎・日本維新の会共同代表が、田母神俊雄氏に国政参加を促したため、またも維新を離れて新党に移動するのではないかという観測が出始めた。2012年暮れに太陽の党を結成して3日で潰した石原元知事は、12年の衆院選前に橋下徹と提携している。このときに石原慎太郎率いる高齢の極右政治家たちが、日本維新の会を乗っ取ってしまったようなものだ。石原の2人の息子は自民党の政治家だ。父親としては、愛する息子のためにいろいろ骨を折ったつもりなのだろう。
結果的に、これで維新の会が近いうちに、死に体になった橋下、松井一郎によるもともとの大阪維新の会、日本維新の会の一部が石原慎太郎の旧太陽の党系と、松野頼久の新党参加組に3分断される可能性が出てきた。
渡辺喜美の個人商店だった「みんなの党」は代表のスキャンダルで分裂し、一部は自民党に、一部は「細野・松野・江田新党」に合流するのではないか――。
キャロライン・ケネディ駐日大使の動きを見ていくだけで、実にこれだけのことが見えてくる。
プロ野球開幕の土曜日、ケネディ大使は巨人のユニフォームを着て、マウンドで始球式に登場し、その合間に球場内で読売新聞の渡辺恒雄と、中曽根康弘元首相に会っている。在日米大使館のツイッターにその写真が掲載されている。ナベツネだけではなく、中曽根元首相がここで同席していることの意味は重い。
孫正義の話をするのを忘れていた。孫正義のソフトバンクは、シェア3分の2を占める2強である、AT&Tとベライゾン・ワイヤレスに次ぐ、アメリカ第三位の携帯電話会社スプリント・ネクステル社を買収して、さらにTモバイル社を買収し、対米攻勢をかけようとしている。民主党政権には盛んに発言のあった孫だが、自民党政権になって原発推進派が巻き返してきたので、反原発派の孫については、しばらくあまり話題を聞かなかった。
しかし、孫は水面下で再度政権交代をしたときに備えて、アメリカ人脈を育成したようだ。つい先日の3月11日にも、孫は訪米し、そこで「携帯インターネットがアメリカのイノベーションと経済と教育を活性化させる」と題する公演を行なった。そのスピーカーで孫を紹介したのが誰あろう、ルース前駐日米大使であった。ルースはもともとシリコンバレーを専門にした弁護士で、オバマ大統領の資金提供者だった関係で駐日大使としてやって来た。孫正義とは、大使時代に数々のトークインベントで同席している仲だ。
このように、野党再編をめぐるパズルがだんだん埋まりつつある。
やっぱりアメリカの思い通りに与党だけではなく、野党もコントロールされていく。これもまた、オフショアバランシングという米外交戦略の一環で、国内政局をめぐる「インターナル・バランシング」という現象なのだ。
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<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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